よく晴れた日の昼下がり。 今日は親友が来ているから、家にあるだけのパスタを全て茹でて、リビングに持って行く。 「お待たせ、ミリー」 いろんな種類のパスタやサラダ、スープにデザートを、テーブルいっぱいに並べて準備完了。 「わぁ〜美味しそう!いつもありがとう、***」 「いえいえ、ミリー先生にはたくさん食べてたくさん書いてもらわないとね?」 「まかせて!食べたぶんはちゃんと働く!」 わたしの親友…改めミリーは、作家だ。 と言っても彼女は少し特殊で、念能力・・・とかいうものを使っての執筆を中心としている珍しい作家。 彼女曰わく自分のその能力は、一度使うだけでかなりの体力と精神力を消耗するらしい。 だから彼女は、能力を使う前にはこうして必ずわたしの家にきて、大量の食事をとる。 「さぁっ!今日も食べるよー!」 腕まくりをしながら、ミリーはさっそく臨戦態勢をに入る。 彼女にとって仕事前の食事は、戦闘と同じようなものらしい。 「どうぞ召し上がれ」 わたしのその言葉を合図に、ミリーはパスタの入ったお皿を持ち、その中身を一気に口の中にかき込む。 そして一分もしない内にそれを平らげ、次のお皿へと手を伸ばす。 …相変わらず豪快な食べっぷりだ。 さて、きっとこれだけじゃ足りないだろうから、またキッチンに戻るとしよう。 「ふぅ…ごちそうさまでした!」 「はい、お粗末様でした」 あれだけ作った大量の料理を、ものの一時間で平らげた彼女の胃袋はやっぱり底が知れない。 その細っこい体のどこに、あの料理達が収まっているのだろう、といつも疑問に思う。 「さて…仕事仕事………………って、ほんとにやらなきゃだめ?」 「ミリー、諦めて仕事して」 「ぶぅぅ…わかったよー……」 渋々といった様子で、彼女は鞄から万年筆と大量の原稿用紙を取り出す。 ミリーの、常人ではありえない程の執筆スピードと文章力の高さは本物で、彼女は業界ではちょっとした有名人だ。 有名どころのお偉い様方から、極秘で自伝の代筆を頼まれることが多い。 今回も、その代筆の仕事だ。 ちなみにわたしは一応、彼女のアシスタントという立場だ。 さっきの食事の用意も仕事の一部だけど、主な仕事は、依頼主とのやり取り。 人に対する警戒心が強いミリーは、依頼主と 接触したがらない。 そんな彼女に変わって、わたしが連絡や取引を行っている。 「はい、これが今回の依頼主の写真」 「名前は?」 「クロード=スミス。有名な政治家よ」 「ん、りょうかい」 ミリーは、人物の名前と写真を見ただけで、その人の自伝を書き上げていまう。 それはねつ造されたものではなく、全て対象の人物が実際に体験した事で綴られている。 多少ドラマ性が溢れるように脚色されている部分もあるが、ほとんどがノンフィクション。 実際に相手のことを知らずとも、その人生を知ることが出来るのは念能力のおかげらしいが、それを文章にするのはミリー自身だ。 「それじゃあ、始めるね〜」 そう言ってミリーがペンを手にした瞬間、彼女の周りの空気がガラリと変わる。 この独特の雰囲気は、オーラと言うらしい。 ヒソカの話にもよく出てくる言葉だけど、実際にそのオーラを見ることができないわたしにとっては、ヒソカとミリーの能力や、この雰囲気は不思議でしょうがない。 ……昔一度だけ、念能力を学んでみたいとヒソカに言ったことがあった。 まぁ、見事に突っぱねられてしまったけど。 『念なんて***は知らなくていい』 『学びたいなんて、二度と言うなよ』 その時のヒソカはこわいくらい真剣な顔をしていたのを、今でも覚えている。 ヒソカがなぜ、わたしに念能力を学ばせたがらないのかは、未だに分からないままだ。 それほど危険なものなんだろうか。 あの時、もっと食い下がっていればその理由を聞けたのかもしれないれど、 ヒソカのあの真剣な表情を見たら、 …なんとなく、 知らないままのほうが、いいような気がした。 ←/→ |