夕食のあと、ソファに座りながらテレビを見ていると、マグカップを2つ持ったヒソカが隣に座った。 「ほら、***の」 「わぁ〜ありがと〜」 ヒソカから紅茶の入ったマグカップを受け取り、そっと口を付ける。 「んーおいしー…」 彼が入れてくれる紅茶は自分で入れるより美味しく感じる。 前に、どうしてこんなに美味しく入れられるのかと聞いたときは、 『愛情を込めて入れてるから◆』 なんて歯の浮くようなことを言われてはぐらかされたんだっけ。 そんなことを考えていると、ふと、膝に重みを感じる。 視線を落とせば、ふとももの上にはヒソカの頭…いわゆる膝枕というやつだ。 ヒソカはわたしのふとももを枕にして、ソファに収まりきらない長い脚を外に投げ出し寝転がっている。 膝枕は、ヒソカがわたしに甘えるときの常套手段だから、今さら動揺も緊張もしない。 なんとなく、指でヒソカの髪を梳いて遊んでみる。 うん…ちょっとキシキシしてるかも。 「……あ、十円ハゲみっけ」 「嘘だね◆」 「…さすがに引っかからないかぁ」 ものすごく、くだらないやり取り。 でも、そんな会話が許されてしまうこの空気がすごく心地いい。 ヒソカもそう感じているのか、珍しくうとうとしはじめているようだ。 「ベッド、いく?」 「ん…まだ、いい…」 「でも眠そうだし…」 「…もう少し、…このま…ま………」 「…ヒソカ?」 頬を軽くつついてみるけど、反応がない。 「……やっぱり寝ちゃったかぁ…」 無理に起こすのもなんだか忍びないので、ヒソカが自主的に起きるまで待つことにしよう。 頭を撫でてやると、ヒソカの表情が少し和らぐ。 それにつられて、わたしもつい頬が緩むのを感じた。 「…いつもこのくらい、大人しいといいのに……」 ヒソカがこの家で過ごす時間は短い。 自身が快楽を得る為に、世界中を飛び回り、理不尽に人を殺してしまえるような人だ。 ひとりの小娘やひとつの家に縛られるわけがない。 実際に、一度出ていってしまえば、滅多に連絡もないし、次にいつ帰ってくるか分からない。 なにより…本当に帰ってくるのかすら、定かじゃない。 もし、帰ってこなくなったら、そんなことを考えてしまえば、どうしようもない虚無感に襲われてしまう。 「…やめやめ、考えたってしょうがないじゃない」 わたしは、なるべく考えない。 近い未来、きっとやってくるであろう現実から、目を背ける。 逃げているだけなのだとしても、今、ここにヒソカがいるならそれでいいの。 …そう、 それだけで、いい。 ←/→ |