小さい頃からずっとヒソカの背中を追いかけてた。 近所にはヒソカしか遊び相手がいなかったし、ヒソカもわたしが傍にいることを拒んだことはなかった。 だって、なにより、気付けば身寄りはお互いだけだったから。 ヒソカの性格に合わせ、様々な場所や地域を転々としながらそれなりに楽しく暮らしていたけど、大人になるにつれわたしにも自立心が芽生え、ヒソカから離れることを考えはじめた。 そして数年前、わたしが田舎に家を買って定住すると言ったとき、ヒソカはひとつの提案をした。 『金はボクが払う』、と。 わたしは全力で首を横に振ったけど、ヒソカが一度決めたことを曲げるわけもなくて、結局はわたしが折れるはめになった。 それに、最後の餞別に家くらい買ってあげたい、なんて言われたらそれは…断れない。 ヒソカと離れる決断をしたのは自分なのに、彼の一言で別れを自覚して心が揺らぎそうになるなんて、情けないったら…。 そんなことを思いながら、結局ヒソカに家を買ってもらってしまった。 その家は外観も内装も全部ヒソカが選んだものだったけど、その全てがわたし好みにできていて、ヒソカからの愛情を感じずにはいられなかった。 わたしは、ヒソカにたくさんの感謝を抱きながら、ひとり新生活をはじめた。 …そしてすぐに思い知った ヒソカが家を買ってくれた、本当の意味を―… ---------------- ヒソカの持って帰ってきた大量の服を洗濯機に放り込んで、スイッチを入れる。 もっとこまめに持って帰ってきて、と帰る度に言い聞かせてはいるけど、彼が聞く耳を持ったことはない。 「まったく…世話が焼けるんだから…」 まぁ、彼の世話を焼くことが、わたしがこの家に住むための条件のようなものだから、仕方ないといえば仕方ない。 わたしがこの家に住み始めて少しした頃、ヒソカは何食わぬ顔で訪ねてきて、 『タダであげる、なんてボク一言も言ってないけど?こんなにいい家を買ったんだ。***には一生、ボクの世話を焼いてもらうくらいのことはして貰わないと、ね?』 と、いきなり言い放ったのだ。 そのときのヒソカは本当にいい顔をしていた。 誰が逃がしてやるか、みたいな意味を込めた、歪んだ笑顔。 そこから半ば強制的に、わたしとヒソカの半同棲生活がはじまった。 そんな少し昔のこと思い返して、小さくため息をつくと、背後から楽しそうな笑い声が聞こえた。 「…なにがおかしいのよ」 「いや?前より母親っぽさが増したな、と思って」 「誰のせいよ、誰の」 腕をめいっぱい伸ばし、両手でヒソカの頬つねると、ヒソカはわざとらしく両手を軽く上げて降参のポーズをとってみせる。 「まいったよ、降参降参」 「もう…!」 お仕置きのつもりで頬をつねってはみたけれど、ヒソカにはまったく利いていないようだ。 昔から、ヒソカがわたしのお説教を聞く気が微塵もないのはわかっているけど、いまさら諦めるのも癪なので、躾だと思って今の今まで続けている。 そのせいか、こういったやり取りは既に、わたしとヒソカの定番のスキンシップだ。 今更、家主うんぬんのわだかまりが入り込む余地はない。 「あーあ、こんな大きくて可愛げのない子どもの母親なんてやだなぁ…」 「そう?ボクはお説教の多い母親、わりと好きだけど?」 「なっ…」 大きな身体を折り、わたしの顔を覗き込むようにして、至近距離で見つめてくる。 ヒソカはこの家にいるとき、いつも髪をおろしていし、派手で奇抜なメイクも、しない。 そんな、髪をおろしたノーメイクの彼は、身内のひいき目なしでもふつうにかっこいいと言えるだろう。 うん、相変わらず悔しいくらい美形だ。 だから、こんな至近距離で見つめられたら、幼なじみであるわたしだってさすがに照れてしまう。 「ククッ…顔、赤いよ?お母さん?」 「っもう…!バカなこと言ってないの!ほら、もう朝ご飯にするよ。支度くらい手伝ってよね?」 「ハイハイ」 ほんと、こんな心臓に悪い子どもがいてたまるもんですか…。 そんなことを考えつつ、ヒソカの背中を押しながらキッチンへと向かった。 ←/→ |