「ねぇ、これどう?***に似合うと思うんだけど」


「いいかもねぇ。サイズも合ってる。あぁでも色がちょっと…」


「ならこっちは?色違いのショッキングピンク」


「んー……ないかな。それだったらこっちの方が…」


「あ、それいいかも」


「…………。」



なんの躊躇もなく村唯一のランジェリーショップへ足を踏み入れた強者ふたりは、本人そっちのけで下着の選定を進めていく。


数日前、ヒソカに下着を一緒に選んで欲しいと言ったのは確かにわたしだけれど、なんだか妙に納得がいかないというかなんというか。


ヒソカだけならまだしも、イルミさんまでわたしの下着を選んでいるのだと思うと、気恥ずかしさを通り越してただの羞恥プレイだ。



「ヒソカの他にあんなイケメン連れて、***ったらほんっと隅に置けないわねぇ〜」


「あ、はは…イルミさんはヒソカの仕事仲「そういえばあの黒髪のイケメン、前にも来てたわよねぇ?」


「…よくご存知で…」


「なに言ってるの!みーんな知ってるわよ!」



田舎ってこれだから怖いわよねぇなんて言って高らかに笑うのは、このランジェリーショップのベテランオーナー。


わたしからしたら、話し好きで有名なオーナーさんも十二分に脅威だ。


ヒソカとイルミさんと一緒に下着を買いに来たということも、明日にはほとんどの住民に知れ渡ってしまうのだろう。


…考えただけでも頭が痛い。



「***ーちょっと来て」


「あ、はーい!…すみません、ちょっと行ってきます」


「やだ、いいのよぉ。ごゆっくりどうぞ〜」



オーナーさんは至極楽しそうに笑いながら、レジのあるカウンターへと戻っていった。





「これは?どう?」


「…どう、って……」



わたしを待ち構えていたイルミさんの手には、なんとも涼しげな下着(上下セット)


いや、それにしても本当に涼しげというか、なんというか……



「……総レースは、ちょっと」


「気に入らない?通気性良さそうだと思ったんだけどなー」


「………」


そりゃあ通気性は抜群でしょうだって透けてるもの肝心な所まで全部半透明だもの。


ツッコミ所は満載だけど、イルミさんは至って真剣みたいだから最早なにも言えない。



「何してるんだいイルミ、***がそんなの履くわけないだろ?」


「ヒソカが持ってるのより全然マシだと思うけど。見なよ***の顔」


「……ヒソカ…」



…純白のTバックは、さすがに嫌。



「似合うと思うんだけどなぁ」


「や、その…できればもうちょっと布面積が欲しいかなぁって……」


「布が少ないからいいんじゃないか」


「…よくない、全然よくないわ」


「ワガママだなぁ…選んで欲しいって言ったのは***だろ?」


「そ、それはそう…だけど……っほ、ほら!男の人が好みそうなデザインは駄目って、ヒソカ自分で言ってたじゃない!」


「ボクが選んだのは例外◆」


「なっ…そ、そんなのずるい……!」



…まずい、


言葉巧みに押し切られてしまいそうなこの展開は、非常にまずい


…とにかくなんとかしないと、本当にあの純白のTバックを履くことになってしまう。


あぁでも、どうやってヒソカを説き伏せたら……



「ていうかコレさ、絶対くい込み凄いよね。なんか痛そう」


「……え、…」


「***は?どう思う?」


「あ……は、はいっ!わ、わたしも!イルミさんの言うとおりだと思います!」


「うん、だよね」



もしオレが女でもこれは履きたくない、なんて台詞、


イルミさん自身に自覚があるのか分からないけど、わたしにとったら今のは感涙ものの助け舟だ。


ヒソカの機嫌は多少悪くなってしまっただろうけど、純白Tバックの脅威が完全に無くなったわけではない今、そんなことまで気にしていられない。



「…イルミ、余計なこと言わないでくれるかい」


「え、だって普通に痛そうだし、どう考えても機能的じゃないし」


「キミの持ってきたそれは?」


「これは通気性重視。まぁ***の趣味じゃないらしいからやめとくけど。ね、***」


「す、すみません…せっかく選んでくれたのに……」


「別に、いいよ。***が気に入ってないのに無理強いしようとは思わないし」



どこかの誰かさんと違って、なんて付け足すようにイルミさんがそう言えば、ヒソカの眉がピクリと動く。


あぁ…イルミさんたらなんてこと……



「……***」


「な、なぁにヒソカ?」


「これ、試着してきてくれるかい?」



近くにあった下着を何着か鷲掴んで、そのままわたしに押し付けてくるヒソカの表情は意外なことに至ってにこやか。


これで纏っている空気が穏やかだったら、言うことなしだ。



「ひ、ヒソカ、ちょっと落ち着いて…」


「いいから、早く行けよ」


「……うん、」



…だめだ、完全に不機嫌モードらしい。


機嫌の悪いヒソカから目を離すなんて正直心配でたまらないけど、ここでわたしが言うことを聞かなければ、ヒソカが余計不機嫌になってしまうことは明々白々。



「イルミさん、すみません……ヒソカのことよろしくお願いします」


「うん、大丈夫。ゆっくり試着してきていいよ」



いってらっしゃーい、なんて言いながらひらひらと手を振るイルミさん。


今のヒソカを任せきりにするのは少し不安…というか申し訳ないけど、ここはイルミさんが上手くやり過ごしてくれるのを願うしかない。




――――……



「………で、イルミ。どういうつもりだい?」


「なにが?」


「なにがじゃなくて、必要以上に***に取り入るなよ」


「ヒソカこそいちいち嫉妬しないでくれる?オレはともかく、***に迷惑かかるし」


「…そうやって***のこと限定でイイ子ぶるのを止めろって言ってるんだけど」



普段はなに考えてるのか分からせないようなにやけ面のくせに、***のことになるといちいち嫉妬心剥き出してくるとか。


まったく、いい歳して面倒なヤツ。



「オレがいい子だとかじゃなくて、単にヒソカがわがまま放題なだけだと思うけど。というか***振り回しすぎ」


「ボクと***は昔からこうなんだ。今更キミにとやかく言われる筋合いは無い」


「……あ、そ」



ほんと、自分勝手にも程がある。


幼なじみという関係はこんな執着も束縛も許されるものなんだろうか。


他を知らないから断定はできないけど、なんとなく、ヒソカの***に対する執着は異常な気がする。


なんというか…例えるなら、カルト。


母親が他の兄弟に構い過ぎると、不機嫌になったり嫉妬したりするところがそっくりだ。



「…まぁ、カルトの方が全然可愛いけど」


「………は、?」


「あ、こっちの話」


「…そう」


「うん」


「……………」


「……………」


「…………………、」


「……なに、その顔」


「いや、なんだか興をそがれたっていうか……」


「ふぅん。機嫌は?直った?」


「……うん、もういいや」



ヒソカは若干疲れたような顔をして、***の方を見てくると足早に去っていった。


にやけたり怒ったり疲れたり、相変わらず忙しないというか面倒な男だ。


***も***で、なんであんな大きな子どもみたいな面倒なのと一緒にいられるんだろうか。


オレだったら早々に縁を切ってる。


異常なほど束縛してくるような幼なじみなんかじゃなくて、もっと別の誰かを選んでる。


自分のことを純粋に想ってくれるような、別の誰かと……




「ちょっ、な、なんで入ってこようとするの!!まだ着替え中だからだめ!!…ほ、ほんとにだめって…っこら、ヒソカ…!!」


「下着姿くらいで騒ぐなよ。お互い見慣れてるんだからさ」


「みっ見せてない!!ヒソカが服も着ないで部屋の中うろついてるだけじゃない…!!」


「そうだっけ、そんな細かいことまで覚えてないや」


「っだ、だからだめ、だってば……!!」



………うん、


別の誰かっていうより、


オレだったら、ヒソカだけは絶対に選ばない。



とりあえず今は、***のいる試着室に堂々と侵入しようとしてるあの変態をどうにかしよう。




………………


(***、大丈夫ー?)


(い、イルミさん…!た、たすっ、助けてください…!!)


(…イルミ、何度も邪魔しないでくれるかい)


(なにいきなり不機嫌になってるのお前ほんと面倒くさい)


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