家の裏手にある林一帯に漂うオーラ。 その発信源はまだ幼い少年。 彼の発するオーラの精度はまだ低いけど、あと2,3年もすればそれなりにはなる計算だ。 その頃に天空闘技場にでもぶち込んでやれば、後は勝手に成長するだろう。 なんて、組み手をしながらぼんやりと考えていると、相手からの攻撃が突然止んだ。 「…レイ、まだ休んでイイなんて言ってないだろ」 「だって兄貴がボケーッとしてるからつまんない」 「贅沢言うなよ。呆けてるボクにだって一発も打ち込めないクセに」 「う゛っ…それは……」 「腕立て3000回。組み手を途中で止めた罰だよ」 「なんだよちっくしょー…」 ぶつくさ言いながらも腕立てを始めるあたり、だいぶ利口になってきたと思う。 師弟関係を結んでから早数年。 反抗すれば顔面を殴られることを、ようやく学習したらしい。 「…そういえばさぁ、最近兄貴んちに泊まってるやつって…兄貴の友達?」 「まさか、ただの仕事仲間◆」 「なんだ、友達じゃないんだ。……昨日ちらっと見ただけだけどさ、なんかめっちゃ強そうだった」 「ボクを殴れないキミより強いのは確かだよ」 「兄貴ってほんとヤなやつだよなぁ。そんな性格だからいつまでたっても***と幼なじみ止まりなんだぜ?」 「…キミはホント、いらないことばっかり喋るなぁ」 「ふぎぃぃっ……!!」 うん、イイ声◆ ちょっとムカついたから、うつ伏せているレイの背中を踏みつけてやった。 「っ子ども相手にムキになってっと、いつか***に愛想尽かされるぜ!?それでもいいのかよ!」 「騒ぐなようるさいなぁ」 足首を掴んで逆さ吊りにしても、レイの減らず口は止まらない。 「それにさぁ!***とあのイケメン、今も家でふたりっきりなんだろ?危ないんじゃないの?」 「キミが心配することじゃない」 「でもさぁっ…っと!!」 近くの木に投げつけてやると、小猿のように俊敏に、くるくる回って地面に着々する。 でも、まだまだ動きに無駄が多い。 そのまま突進して来たから、適当にあしらってやる。 腕立ても終わらないままだけど、組み手再開だ。 正直、***とイルミをふたりきりにすることを心配だと思ったことはない。 イルミのあの絆されようを見たら、誰だってそう思うだろう。 あれだけ***に懐いていたら、イルミが彼女に危害を加える可能性は限りなく低いだろうし。 だから、心配することは何もない。 「でも、さ!っもし!***がそいつに惚れちゃったら!兄貴はどーすんのっ!!」 「は……っ、」 レイの言葉に気を引かれてできた一瞬の隙を付かれ、左頬に一発の蹴りをくらった。 蹴られたことよりも、レイの言った言葉が頭に残って、もう組み手どころじゃあない。 蹴りをくらわせたことに喜んでいたレイも、ボクの異変を感じ取ったのか、急に押し黙ってボクの顔を覗き込んでくる。 「あ、兄貴…?」 …***が、 イルミに惚れる? ………そんなこと、 「あるわけないだろ、そんなこと◆」 「っっいってぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!!」 覗き込んできたレイの頭を地面に叩き付けて、さらにめり込ませるように踏みつける。 あり得ないようなことを言った罰だ。 異常なほど恋愛に疎い***。 恋愛以外の自分の感情にすら疎いイルミ。 そんなふたりが、この短い期間でそんな色っぽい関係に発展する訳がない。 そんな心配、するだけ無駄だ。 ……でも、 「今日の稽古はおしまい。防御時の念の部分移動が遅いから、次回までに改善しておきなよ」 稽古を予定より早めに切り上げる。 別に何が心配ってわけでもないけど、 なんとなく早く帰った方がいいような気がしたから。 ←/→ |