朝起きると、頭に少しの痛み。 イルミさんがうちに来てからここ数日、毎晩のように呑んでるからなぁ…なんて思いながら、ゆっくりと身支度を整える。 洗顔を済ませてから、クリーム色の丸襟のワンピースを着て、上からエプロンをつけて準備完了。 キッチンに立つ前に、髪はサイドでひとつに束ねる。 朝食の用意し始めてしばらく経った頃、客間の扉が開く。 「おはようございます、イルミさん」 「おはよう。……あれ、ヒソカは?まだ寝てる?」 「もう起きてますよ。今は外で稽古の真っ最中だと思います」 「稽古?」 「近所の男の子にせがまれて格闘技を教えてるんです。たぶん今日も、裏手の林の方でやってますよ」 そう告げるとイルミさんは、至極意外というか不思議そうな顔をした。 うん、だいぶイルミさんの表情の変化がわかるようになってきた。 「ヒソカ、あぁ見えて意外と面倒見いいんですよ」 ヒソカとあの男の子、改めレイくんのやりとりを思い出して思わず笑みがもれる。 突然笑い出したわたしを見て、イルミさんはますます不思議そうな顔をした。 そう、あれはヒソカがここで暮らし始めてすぐのことだ。 とある格闘専門雑誌を持って、突然うちに押しかけてきたのがご近所に住むレイくん。 ちなみに当時9才。 眼前に突き出されたページを見てみると、そこには血まみれで顔面がぐちょぐちょになった人のグロテスクな写真と、ひどく見なれた幼なじみの写真、 そして『天空闘技場 奇術師ヒソカ またまた快勝!!』の文字。 どうやらこの記事を見て、ヒソカを訪ねてきたらしい。 突き出された雑誌を前に、どう対処したものかと悩んでいると、ふいに横から伸びてきた大きな手がレイくんから雑誌を奪った。 かと思ったら、雑誌はポンッとファンシーな音をたててヒソカの手から紛失する。 どうやらヒソカお得意の意地の悪いマジックのせいらしい。 そんなヒソカの行動を皮切りに、ふたりの間で論争が勃発する。 「な、なにすんだよ!!雑誌返せよ!!!」 「ヤだね◆ボクの記事を勝手に***に見せたんだ。没収だよ」 「なっなんだよそれ…!」 「というかキミ、何の用?用がないならさっさと帰ってくれる?」 「あるから来たんだ!!おれ、あんたに頼みがあって…それで…」 「頼み?なんだい、それ」 「っ実はおれ!あんたの弟子になりた「却下◆」 「っなんなんだよ!!聞いたんならせめて最後まで言わせろよ!!」 「ムリ◆素質はそれなりにありそうだけど、キミ生意気だし。なにより面倒くさい」 「面倒ってだけでいたいけな子どもの頼みごと断るのかよ!あんたそれでも大人か!?それとも鬼か!?悪魔か!!??」 「あぁ…うるさいなぁ。どれだけ粘っても結果は同じ。早く帰りなよ」 「っでもおれ!!強くなりたいんだ!」 「はいはい、キミくらいの年頃ならみんなそう思うよ。どうせ友達とのケンカに勝ちたいとか、そんな理由だろう?」 「ちがう!!おれはただ、あいつを守ってやりたくて…!」 「あいつ?」 「……幼なじみがいるんだ。同い年の女の子。あいつ弱虫だから、いつも年上のやつらに面白がってちょっかいだされて泣いてて……」 「へぇ…幼なじみねぇ…」 「…おれ、年上に適うほど強くないから、……だから、強くなりたいんだ!年上のやつらだけじゃなくて、これからずっとあいつのこと守ってやれるくらい…!!」 「………」 「っだから!ヒソカ……さん、の弟子にしてください!!お願いします!!!」 「…………」 「お願いします…!!」 「………明日、早朝4時に裏手の林」 「へ……」 「稽古、つけて欲しいんだろ?」 …こうして、ヒソカのその一言から、ふたりの師弟関係が始まった。 「…っていう感じで、結局何年も稽古続けてるんですよ」 「へぇー…なんか意外、あ、これ美味いね」 「おかわりありますよ」 「ん、じゃあお願い」 イルミさんはヒソカの話にはあまり興味がないみたいだ。 けど、今日の朝食も気に入ってくれたようでなによりだ。 …食事に夢中になってる今なら、聞き流してもらえるだろうか。 「…ねぇイルミさん」 「なに?」 「わたし、なんであの時、ヒソカがレイくんのお願いを聞く気になったのかが未だによくわからないんです」 「聞いてみても、さぁとか言ってはぐらかされちゃったり…今でも気になってるんですけど…」 「オレは分かったけど」 「え?」 う、うそ…… わたしの目線からしたあの思い出話から、ヒソカの心境まで読み取るイルミさんって一体…… も、もしかしてエス「エスパーとかじゃないから安心していいよ」 「っ……!!」 どうしよう、 ヒソカの当時の心境より、 今はイルミさんの読心術のほうが気になってしょうがない…! ←/→ |