「片道3時間ってさ、遠くない?」


「そうかい?ボクは慣れてるからそうは感じないけど」



***が用意した料理をつまみに、ヒソカと酒盛りを始めてもうどれくらい経ったのか。


つまみが美味いからつい酒が進んだ。


時間を忘れるほど呑んだのは久しぶりだ。


そのせいか、いつもより少し饒舌になっているのが自分でも分かる。



「なんだってこんな不便な場所に家建てたの」


「***の監視がしやすいから」


「ふぅん、歪んでるね」



ヒソカからは少しの違和感。


言ってることはいつも通り理解しがたいくらい気持ち悪いくせに、今日のヒソカはどこかおかしい。


いつもはオールバックなのに今日は髪を下ろしてるし、奇抜なフェイスペイントをしていないことにも違和感を感じる。


そしてなにより、いつもの狂気じみたオーラはどこへやら、向のソファに座って酒を煽るヒソカは穏やかそのもので。


空港で落ち合った時はあんなに機嫌悪そうにオーラ飛ばして来たくせに、家に着いた途端にオーラも顔が緩みだしたし。



「…なんか気持ち悪い」


「それだけ呑めば気持ち悪くもなるさ」


「や、体調じゃないし」



まぁ、ヒソカが気持ち悪いのはいつもだけど。


んー…でも、なんていうかこう…


所帯じみてる、とでも言うんだろうか。


さっきも***があくびをしただけで、お姫様だっこして寝室に連れて行ってたし。


まさかヒソカにこんな一面があるなんて知らなかったし、できれば知りたくもなかった。



「…ヒソカってさ」


「ん?」


「***のこと好きなの?」


「好きだよ。大事な幼なじみだしね」



そう言ったヒソカの表情は、やっぱり気持ち悪かった。


誰かを慈しむような顔なんて、ヒソカみたいな殺人鬼には縁遠いはずなのに。


どれだけ溺愛してるんだか。


まぁ、オレのキルに対する気持ちには適わないだろうけど。



「てゆうかさ、***のどこがいいの?まぁ、顔もスタイルも悪いとは言わないけどさ、そこまで溺愛するほど?」



握手の時に見せた笑顔は人並み以上だと思ったけど、それでも絶世の美女とは言い難いし、出るとこ出てるけどオレ的にはもうちょっと肉付きよくてもいいと思うし、


見る限り非力そうで、念が使えるわけでも特質系なわけでもなさそうだし。


どうみても***は、ヒソカが執着するタイプじゃない。



「んー…改めて聞かれると答えづらいけど…そうだねぇ……」



そう言ってヒソカはグラスを置いて、考え込むように腕を組んだ。


悩ましげな顔が少しわざとらしい。



「悩むふりとかいらないからさ、早く答えて」


「流石にバレたか◆」



飄々とした態度で、肩を竦める。


そんな動作もやっぱりわざとらしい。



「どこがっていうより***の全部が愛しくてたまらないんだ」


「………………そういうのやめてくれる?鳥肌たったんだけど」


「ゴメンゴメン。まぁ強いて言うなら、あぁ見えて意外と神経図太いところかな。あと家庭的なところも」


「……図太そうには見えないけど」



どちらかと言えば繊細そうな顔してるし。


ちょっとつついたらすぐ折れそうな感じ。



「イルミも知ってるだろ?***はボクが余所でナニしてるか知ってて、一緒に暮らしてるんだ」


「…あぁ、なるほど…一般人にしては図太いね」



そうだった。


一般的な感覚からすれば、人殺しと同居なんてこと自体有り得ない話だ。


ただの一般人である***が、なんの戸惑いもなくヒソカと暮らしてることが、彼女の図太さを証明している。



「なんたってボクの幼なじみだからね。イルミの職業を知っても、別段驚かないよ」


「そう?それは流石に怯えると思うけど」



ゾルディック家って言っても分からないだろうけど、暗殺家業ってだけで怖がるはず。


それか妙によそよそしく接して、オレと距離を置き出すだろう。



「不都合がなければ話してみなよ。きっとイルミが驚くことになる」


「ふぅん、別にオレは知られてもいいけど。***が取り乱したり面倒なことになったら、ちゃんと責任とってくれるよね?」


「あぁ、モチロン◆」



さて、***はどんな反応をするだろうか。


オレの全てを伝えれば、一度向けられたあの笑顔を見ることはもうないかも知れない。


そんなことを思ったりもしたけど、それより、目の前でドヤ顔してるヒソカが目障りでしょうがなかった。


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