家全体を埋め尽くす、ひどく重い雰囲気。 原因はもちろんヒソカ。 彼はミリーが帰っても、未だにずっと固まったままだ。 静まり返った室内に突然、バリンッ、と音が響く。 「っな、なに…!?」 音のした方を向けば、テーブルに置かれていたコーヒーカップが、原型を留めないほどに割れていた。 まるで爆発でもしたかのように、破片が周囲に飛び散っている。 誰が触れたわけでもないのに、なぜ? …なんて思うまでもなく、原因は明らかだった。 きっと、部屋中に満ちた異状なくらい重く、そして肌を刺すようにビリビリとしたこの空気のせい。 目に見えないから確認はできないけど、恐らく、ヒソカからオーラが溢れて出しているのだろう。 …なんだか酷く息苦しい。 「…ねぇヒソカ、そろそろ機嫌直して?」 物的被害が出てしまった今、ヒソカをこのまま放置しておく訳にはいかない。 窓ガラスなんて割られたら大惨事だ。 「ヒソカの許可なしでミリーを家に呼んだことは謝るわ」 「…ごめんなさい」 「次からはちゃんと、ヒソカに連絡するから」 ヒソカと正面から向き合い、目を合わせながら、誠心誠意謝る。 どうか機嫌を直して、という切実な願いも込めて。 すると突然、ヒソカが大くため息を付いた。 それと同時にあの重苦しい空気も薄れていく。 あれだけ大きなため息を付いたあたり、機嫌が完全に良くなったという訳ではなさそうだけど、もう会話くらいはできるだろう。 問題はこの後。 次の会話をどう切り出そう、なんて考えていると、 「***」 「…なぁに?」 ふいに名前を呼ばれ、少し驚く。 まさか、だんまりを貫き通してたはずのヒソカから話しかけてくるなんて。 「ここ、座って」 手をひかれたと思えば、ヒソカと向き合う形でソファに座らされた。 心なしか、顔が少し近い気がする。 「ね…ねぇヒソカ、ちょっと近すぎない?」 心臓に悪いので、できればもう少し離れてほしい。 「…あの女が近づくのはよくて、ボクはダメって……どういう差別だい?」 「へ…?」 「どうしてあの女にキスされて動揺しない?」 「ど、どうしてって言われても…」 「もしかして慣れてるとか?あの女とそういう関係なわけ?」 「ちょ、ちょっと待ってヒソカ、なに言って」 「***は、ボクよりあの女が好きなんだろ?」 「え……」 ……ヒソカは何を言ってるんだろう。 「く、比べる対象がちがうと思う、の…」 「同じだろ」 「だ、だってミリーは親友だし…ヒソカは幼なじみでしょう…?」 「幼なじみか親友、どっちかハッキリしろ。…って言ってるんだけど」 「そんな理不尽な……」 ヒソカは一体どうしたんだろう。 まるで、 「あの子と私、どっちが大事なの?」 なんて聞いてくる彼女みたいだ。 うん、なんだか彼氏になった気分。 ……なんて悠長なことを考えている場合じゃあなかった。 ヒソカはなんでこんな、やきもちを焼いた女の子のようなことを言うのだろうか。 昔から、外見に合わず女々しいところが……………………ん? 「……ねぇヒソカ、」 「…なに」 「間違ってたらごめんね。…もしかして …………ミリーに妬いてるの?」 「…今更?」 「え、」 「気付くのが遅い」 ぎゅーっと、両手で頬をつねられる。 これ、いつもはわたしがする方なのに… 「っいひゃい、いひゃいっへは…!」 「んー…◆何言ってるか分からないなぁ」 「むぶっ、!」 今度は両手で思いきり頬を挟まれた。 「なに、する、のよ…!」 「ボクを妬かせた罰だよ」 「な、なんで女の子のミリーに妬くのよ…」 ちょっとした反抗心表すように、ぽつりとつぶやく。 すると、掴まれたままの腕をひかれ、身体ごとヒソカの腕の中に閉じ込められた。 「自分の大事なモノを他人に触れられたら、面白くなくて当然だろ?」 「だ、大事って、」 「***はボクのだから」 ヒソカは、優しく、それでいてどこか歪んだ笑顔を浮かべながら、わたしの頬を撫でる。 そんな顔も綺麗だなぁ…なんて、ぼんやり思っていると、 ふいにヒソカの顔が近づき、 唇が、重なった。 ←/→ |