「ぶはぁぁぁー…疲れたぁぁぁー…っづう゛…!」



数時間に及ぶ執筆を終え、ミリーは勢いよくテーブルに突っ伏す。


額をぶつけたような音が聞こえた気がしたが、触れてほしくなさそうなので黙っておこう。



「お疲れ様」



突っ伏したままのミリーの横に入れたてのコーヒーを置くと、彼女は顔をこちらに向けて、へらっと笑う。



「ありがとー…***ー…」



無理したような笑顔には、疲れが滲んでいた。


労りの意を込めて頭を撫でると、へへへっ、と嬉しそうにまた笑った。



「原稿の確認は明日にしよっか」


「えー…あたしまだ頑張れるよーう…」


「無理しないの。そんな顔してるのに…説得力ないよ?」


「ぶぅー…」



疲れているにも関わらず、ミリーの表情はコロコロとよく変わる。


かわいいなぁ、なんて思いつつ、彼女が書いた原稿をきれいにまとめていく。


ミリーは、コーヒーの入ったカップに口を付けながら、作業をする私をじっとみつめている。



「……あーあ、やっぱり私、***と一緒に暮らしたいなぁ」



なにを思ったのか、ミリーはそんなことを言い出す。


一緒に暮らしてみたい、という話は今までに何回もしているから、そんなに唐突というわけではないけれど。



「なら、ここに住んじゃえばいいじゃない」


「…やだよう、ヒソカいるじゃん」



ミリーはふて腐れたような顔をして、再び机に突っ伏す。


わたし達が何回も同居うんぬんの話を、するだけしてなかなか進展しない理由がこれだ。




ミリーは、ヒソカを嫌っている。


そして、その逆も然り。



まぁ、全ての原因はヒソカにあるのだけど。


あれは確かふたりが初対面のとき。


出会い頭にヒソカが放った一言が原因だ。





ミリーは知らない人とあまり関わりたがらないが、親友であるわたしの幼なじみなら会ってみたい。


ヒソカに会うとき、無愛想にならないように頑張る、とまで言ってくれていた。


ほんとに天使のように健気な子だ。



対する悪魔は、わたしが親友を紹介したいと言ったときからすこぶる機嫌が悪かった。


ミリーに失礼のないようにして欲しい、と釘を刺してはおいたが、そんな言葉はまったく無意味だったようで。



ヒソカはミリーと対面した瞬間、彼女を鼻で笑い、



 『13点』



……と言い放った。





…そんな最悪の対面以来、ミリーはヒソカを過剰な程敵視している。



「ねぇ***、あんなやつ追い出しちゃってよー…」


「さすがにそれは無理よ。ここの家主はヒソカだし…」


「なら***がうちに来れば…………って無理だ、本散乱してて寝る隙間ないや……」


「ミリー……」



ついこの間片付けに行ったばかりなのに、もう散らかしてしまったのか。


近い内にまた掃除しに行かなきゃ、なんて思いつつ、まだふて腐れるミリーの頭を撫でていると、彼女は急に、堰を切ったように叫びだした。



「っもぉぉお!どうしたらいいの!?どうやったら***と一緒に暮らせるのよ…!!!」


「み、ミリー、落ち着いて…」



耳がキンキンする。


ミリーのよく通るソプラノの叫び声はさながら凶器のようだ。


なんとか宥めようとするけれど、一度噴き出した不満はすぐには収まらないらしい。



「だってだって!あの全身公然猥せつ物さえいなければ***はあたしのものなのに!!」


「誰が全身公然猥せつ物だって?」


「そりゃあ、あの奇術師(笑)に決まって……………………ん?」


「あ、」


「やぁ◆」



………………。



…家主様、最悪のタイミングでのご帰還です。


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