幼い頃の幸せな時間 | ナノ

ヒロイン視点


ようやく部活が終わった。

いつもなら“ようやく”なんて思わないけれど、今日だけは特別だ。

今日は私の誕生日で、予定を空けておくようにと以前から景吾くんに言われていたから。

「はい、お疲れさま。」

練習を終えた景吾くんにタオルを手渡す。

「ああ。」

受け取ったタオルで汗を拭く景吾くんは、なぜか少し不機嫌そうだ。

「どうかしたの?」

「生徒会のほうに行かなきゃならなくなった。」

「そうなんだ。……わかった、先に帰るね。」

「そんな顔するんじゃねぇよ。それ程時間はかからねぇ。…良い子で待ってな。」

そう言った景吾くんは私の頭のてっぺんに口付けた。

「け、景吾くんっ、場所は考えて。」

信じられないと睨む私を見て、景吾くんは楽しげに口の端を持ち上げる。

「これでも我慢してやってるんだぜ?」

「っ、……いいから、早く行って!」

私は顔を真っ赤にしながら景吾くんの背中を押した。



目の前に広がる色とりどりの宝石を散りばめたような夜景。

夜空に瞬く星の光を消してしまうそれは、けれど綺麗で見入ってしまう。

私は景吾くんに連れられて、どこかのホテルの最上階の部屋にいた。

今日はここで食事をするそうで、私は景吾くんの家で用意されていた上品な淡い黄色のワンピースに着替えている。

靴やバッグにアクセサリーまでコーディネートされていて、髪も綺麗にセットしてもらい、なんだかお姫様にでもなった気分だ。

「気に入ったか?」

窓辺に立っていた私の横に景吾くんが並ぶ。

景吾くんはかっちりしたスーツ(英国式らしい)を着ていて、すごく格好いい。

「うん。高い所から見ると、さらにすごいね。」

だけど、隣の景吾くんを見上げて、その瞳が一番綺麗な宝石だと思う。

強い光を帯びた深い蒼色の瞳が。

「そうか。……だが、本題はこっちだぜ。」

そう言った景吾くんに左手を取られて、薬指にひんやりとした感触がはしる。

私の手の甲に口付けた景吾くんが甘く微笑む。

視線を景吾くんから自分の左手に移すと、薬指にはめられていたのは、蒼い石がついた指輪。

「ありがとう、景吾くん。……すごく綺麗だね。」

「これが一番相応しいと思ったからな。」

「ふさわしい?」

よく意味が分からなくて、少し首をかしげる。

「分からなくてもいい。俺がお前に贈りたかっただけだ。」

握ったままの私の左手に、景吾くんは再び口付けを落とす。

「景吾くんの瞳と同じ色だから、すごく好きな色だよ。」

「そうか。」

蒼い瞳に愛おしそう見つめられ、どうしようもなく幸せだと思う。

「なまえ、ずっと俺の隣にいろよ。」

「うん、ずっと景吾くんの隣にいさせてね。」

「ああ、当然だ。」

左手をそっと引かれて、景吾くんの胸へと導かれる。

そして、降ってくるのは甘い口付け。

「愛している、なまえ。」



私はあまりにも幸せです

あなたは私の、最初で最後の人。
 

【サファイア(Sapphire)】

サファイアは長年に渡って、「信頼」「誠実」「真実」「貞節」の象徴とされてきました。そして、「堅固な愛の証」を象徴し、恋人や夫婦の絆を強めるとされています。日本では婚約指輪と言えば殆どがダイヤモンドですが、ヨーロッパでは、サファイアを選ぶ人も多いようです。
※サファイアの石言葉・宝石言葉は資料によって異なります。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -