幼い頃の幸せな時間 | ナノ

ヒロイン視点


彼の姿が完全に見えなくって、私はその場にへたり込んだ。

まだ心臓がドキドキしているし、ものすごく顔が熱い。

「なんで、あんなこと…」

分からない。

普段の彼は、自分から不用意に女の子に近付いたりしないのに。

彼に近付こうとする女の子は多いけれど、彼が女の子に近付くところは見たことがない。

だったら、今のはどうして。

「……ありえないよね。」

ほんの一瞬、うぬぼれた考えが浮かんだけれど、そんなことがあるはずもない。

あれはちょっとした彼の気まぐれで、私は少しからかわれた……それだけのことだろう。

「ねぇ、ちょっといい?」

「え…?」

不意に、影が太陽を遮った。



さっきの影の正体は、目の前にいる上級生の女の人たちだった。

タイミングが悪いことに、さっきの光景を見た彼女たちに変なふうに誤解されてしまったらしい。

彼と私は特別な関係ではないと説明したのに、口々に責められて、私は黙り込むしかなかった。

「ちょっと! 聞いてるの!?」

「……聞いています。」

「すましてんじゃないわよ! アンタ、生意気なのよ!」

「っ……」

急に振り上げられた手をよけることが出来ず、走った痛みに頬を押さえた。

「アンタなんか…っ」

ネイルが塗られた手が再び振り上げられたのを見て、ぎゅっと目をつむる。

けれど、やってきたのは頬への痛みではなく、

「なぁに? この安っぽいオモチャ。」

首に食い込む細いチェーンの感触。

「っ、……触らないでください!」

私の【たからもの】に触れている手を振り払う。

「ふぅん。大事なもの、なんだ?」

目の前の女の人は、とても嫌な笑い方をした。



涙が止まらなくて視界がにじむ。

見つからない。

ずっと探しているのに。

大事な、とても大事なものが見つからない。

「なまえちゃん、何しとるん? こないな所で。」

必死になって【たからもの】を探している私の前に現れたのは…

「忍足、先輩……見つからないんです。どこにも…」

私は涙を拭うことも忘れて、忍足先輩を見上げた。



敵意ある思い

私がそばにいてはいけないの?


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