幼い頃の幸せな時間 | ナノ

跡部視点


昼休みの騒がしい廊下を歩きながら、自然と考えがいくのはみょうじのことだ。

一体どんな心境の変化があったのか俺には知る由も無いことだが、みょうじは変わった。

俺に対してあった壁が無くなった。

普通に話すようになったし、俺の前でも笑うようになった。

そして、みょうじが変わったことで自分にも変わったことがある。

あの訳の分からない感情が薄らいだ気がする。

全く消えた訳ではないが、それよりも、みょうじがいると不思議と穏やかな気持ちになるのを自覚していた。

何故か、それは懐かしい感覚のように思える。

やはり理由は分からないが、それは不快ではなかった。

「! 今のは…」

外から微かに悲鳴が聞こえたような気がして立ち止まり、窓の外を確認した俺は、見えた光景に頭痛がした。



中庭まで駆けつけてみれば、暢気に寝ているジローと疲れ切っているみょうじの姿があった。

ジローに抱き付かれて下敷きにされているみょうじは力尽きたようで、ぐったりとしている。

「ジロー、寝ぼけるてんじゃねぇ。」

声を掛けたくらいでは起きそうにないジローの腕を掴み、みょうじの上から退かす。

「おい、大丈夫か?」

ひとまずジローを芝生に転がして、うつ伏せになっているみょうじに声を掛ける。

「はい……なんとか…」

みょうじは疲れたように言って、のそのそと立ち上がる。

「あれ〜 跡部じゃん。何してんの?」

急にむくりと身体を起こしたジローは眠そうに目を擦りながら俺を見上げる。

「してたのはお前の方だろうが。」

「俺、寝てただけじゃん。」

「だけ、じゃねえよ。お前、寝ぼけてこいつに…」

「な、なんでもないです! ぜんぜん違います!?」

顔を赤くしたみょうじが慌てた様子で俺の言葉を遮った。

「なんだぁ?」

「……ジロー、お前は教室に戻れ。」

「まだ休み時間なんだから寝てたってEじゃん。」

「さっさと戻れよ。」

腕を組んで、地面に座り込んでいるジローを上から睨み付ける。

「んだよー、戻ればいいんだろ。もうワケわかんないC。」

のそりと立ち上がったジローは文句を言いながら渋々校舎に戻っていく。

「あの、ありがとうございました。」

「いや。それより、お前は学習能力が無いのかよ。」

呆れた声で言えば、みょうじは気まずそうに苦笑いを零した。

「それが……先に樺地くんに会っていて、芥川先輩を探していると聞いたので、起こそうと思って…」

「そういう場合は樺地に任せておけ。それと今後、寝ているジローに近付くんじゃねぇ。いいな。」

「でも部長、芥川先輩はわざとやっているわけじゃないんですし…」

ジローを庇うみょうじは、俺のことは名前で呼ばない。

何故か、それだけが以前と変わらない。

何となく面白くない、ような気がする。

前触れもなくみょうじに近付き、耳元に顔を寄せる。

「俺様の言うことが聞けねぇのか?」

耳に息を吹き込むように低く囁く。

顔を真っ赤にして固まったみょうじの様子に満足して、俺は身体を離した。



和らぐ心

君の何がそうさせるのか。


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