![]() 跡部視点 みょうじがテニス部を辞めた。 俺の所為、なのだろう。 そのことに罪悪感を覚えない訳では無かったが、正直ほっとした。 あいつの存在は何故か俺を不安定にする。 その理由は未だに分からないが、これであいつに煩わされる事はもう無い。 だが、これでいい筈なのに、胸がざわついて落ち着かない。 「くそ…っ 何だってんだ。」 乱暴に前髪を掻き上げた時、ふとテーブルの上の箱が目に入った。 今日の昼間、俺宛に届いたというそれに心当たりは無く、訝りながら中身を確認する。 中に入っていたのは、一本の赤い薔薇と添えられたメッセージカード。 そして、安っぽいイミテーションリング。 「何だ、これは。」 ● ● ● 「やくそくだからな。」 「うん、やくそく。…わすれないでね?」 「バーカ。おれがわすれるわけないだろ。」 「うん。わたしもぜったいわすれないよ。」 「それ、なくすなよ。」 「なくさないよ! わたしのたからものだもん。ずっとだいじにする。」 「…ふん。」 「あっ、おむかえだ。……じゃあ、ばいばい。」 「ちがうだろ。またあえるんだからな。」 「…うんっ またね!」 「ああ、またな。」 ● ● ● カーテンの隙間から漏れる朝日で目が醒めた。 …何か、夢を見ていたような気がする。 「!!」 飛び起きて、昨日届いた箱を探す。 テーブルの上に置いたままだった箱を開け、蒼いガラスのついたイミテーションリングを手に取る。 どうして俺は忘れていたのか。 「……何故だ…」 これは、俺が“あいつ”にやったものだ。 少し古びている指輪を握り締めていると、昨日確認しなかったメッセージカードが目に留まった。 片手に指輪を握ったまま、そのメッセージを開くと、 【あなたの幸福を祈ります】 ただ無機質な文字が印刷されているだけだった。 互いに忘れないように どうして、こんな大事なことを俺は… ※『赤い薔薇の葉』の花言葉は『あなたの幸福を祈る』『無垢の美しさ』です。 ← |