あなたとなら幸せになれる | ナノ

忍足視点


ほとんど使われていない空き教室で、俺はなまえちゃんと二人きりになっていた。

昼休みになってすぐに2年の教室まで行き、なまえちゃんを少し強引に連れ出したのだ。

二人の間に横たわる沈黙が重い。

きっと、相当泣いたのだろう。

俯いているなまえちゃんの目許は赤く腫れてしまっている。

それが痛々しい。

俺が傍にいたなら、一人で泣かせなかったのに。

「何で…マネを辞めたん?」

単刀直入に聞くと、なまえちゃんの小さな肩が大きく震えた。

「理由は、ないです。」

「そんな訳ないやろ…っ」

思わずなまえちゃんの両肩を掴むと、さっと顔を背けられた。

掴んだ肩は薄くて、曝された首筋は細くて、その存在が酷く頼りなく感じる。

「何があったん? よっぽどの事があったんやろ?」

「っ、……なにも、ないです…」

なまえちゃんは震える声で、それでも否定する。

傷付いたその姿を見ていられなくて、俺はなまえちゃんそっと抱き締めた。

突然の俺の行動に、腕の中で強張る小さな身体。

「辛かったやんな。」

いつかしてもらったように、背中を優しく叩くと、なまえちゃんの身体が細かく震えてきた。

声を殺しながら泣く姿に、胸が酷く痛んだ。



どれくらい時間が経ったのか。

どうにか泣き止んだなまえちゃんは、ぽつりぽつりとマネージャーを辞めた理由を話してくれた。

それを聞いて、跡部に対する怒りは勿論あったが、同時にこの子を跡部に取られなくて良かったと思う自分がいた。

(最低、やな。)

けれど、もっと最低なのは…

「なまえちゃん……跡部やめて、俺にしとき。」

「……え…?」

驚いた顔で俺を見上げるなまえちゃんに、更に言い募る。

「俺、なまえちゃんのことが好きやねん。俺なら絶対になまえちゃんを泣かせたりせぇへん。ずっと大事にしたる。」

困惑の色しか浮かんでいない瞳を見つめる。

「あ、あの…」

「俺を選んでや。ずっと待っとるから。……ホンマに好きやで、なまえちゃん。」

これ以上ない位に優しい声で、俺はなまえちゃんの耳元に囁いた。



僕のものになって

君の悲しみに付け入る僕は卑怯だ。


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