![]() 跡部視点 どうしてか、無性に苛々する。 原因は分かっている。 あいつだ、忍足が勝手にマネージャーに推薦した女。 何故、あの時の女を連れて来たのかは、すぐに分かった。 忍足はあいつを気に入っているからだ。 だが、そんな事はどうでもいい。 あいつは仕事の覚えは悪くないし、与えられた仕事をきちんとこなしている。 だから問題は何も無い、筈だ。 だというのに、あいつの存在はどうしようも無く俺を苛立たせる。 あいつを見ていると、酷く落ち着かない気持ちにさせられるのだ。 何の理由も無く他人に乱されるなど俺らしくもない。 そこまで考えた時、部室のドアが開けられた。 「…お疲れさまです。」 中に入ってきたのはみょうじで、俺の姿を見るなり表情を硬くした。 何故かこいつは俺に対して妙に余所余所しい。 好かれたい訳でもないが、おそらくはその事も苛立ちの原因の一つだろう。 「部長、お先に失礼します。」 「ちょっと待て。」 俺を見もせずにさっさと出て行こうとしたみょうじを呼び止めれば、少し間を置いてからゆっくりと振り返った。 「はい、なんでしょうか?」 みょうじに近付き、その後ろのドアに乱暴に手をついた。 「一体、お前はどういうつもりだ? 何故、俺を避ける?」 驚いて固まるみょうじには構わず、かねてからの疑問を口にする。 「っ……避けてなんて、いないです。」 そう言って目を逸らすみょうじに、俺の苛立ちが増す。 「避けてるじゃねぇかよ。自分から近付いてきやがった癖に。…お前、何が目的だ?」 「っ、……そんな、こと……私は、なにも…」 「目障りなんだよ。お前を見ていると苛々する…っ」 苛立ちを抑えられず、俺は自分のやり場のない感情をぶつけた。 「っ、……ご、ごめっ…なさ……っ…」 みょうじが大粒の涙を零したのを見て我に返るが、もう遅い。 「もういい、帰れ。」 俺はドアについていた手を下ろし、みょうじから離れて背を向けた。 「……はい…」 消え入りそうなみょうじの声が耳の奥に残った。 君の不快さが僕を悩ませる その理由が分からない。 ← |