あなたとなら幸せになれる | ナノ

忍足視点


あの子は不思議な子だ。

なんとなく、あの子の周りは空気が優しい気がする。

そう思うのは自分の欲目だろうか――


「一緒してもエエ?」

昼休みの生徒で賑わうサロンで席を探していた俺はなまえちゃんの姿を見かけて、迷わず声をかけた。

「忍足先輩…はい、どうぞ。」

顔を上げたなまえちゃんはふわりとした笑顔を俺に向けた。

ほっとして心が和らぐ、この可愛らしい笑顔が好きだと思う。

「ありがとうな。」

向かいのイスを引いて腰を下ろす。

「いえ。…あの、忍足先輩。」

「ん?」

真っ直ぐに俺を見てなまえちゃんは表情を正した。

「ありがとうございます、マネージャーに推薦していただいて。」

唐突に頭を下げられ、少し戸惑いながらなまえちゃんの見る。

「どしたん、急に?」

「ちゃんとお礼を言ったことがなかったから、気になっていたんです。」

顔を上げたなまえちゃんは手持ち無沙汰なのか、胸元のブラウスを握っている。

「そうか。でも、気にせんでええで。自分が来てくれて、俺ら助かってるし。」

「本当ですか? そうだったら嬉しいです。」

「ホンマや。自信持ってエエで。」

向かい側に手を伸ばし、本当に嬉しそうな顔で笑うなまえちゃんの頭を撫でる。

手触りのいい髪の感触が手の平に伝わってくる。

大人しくされるがままのなまえちゃんは、どうやら頭を撫でられるのが好きらしい。

目が合うと、なまえちゃんは照れたように淡く頬を染めた。

そんな姿が可愛らしいと思いながら、引っかかることが一つ。

最初から気になっていたことだ。

俺はなまえちゃんの頭からそっと手を離した。

「話は変わるんやけど、一つ聞いてもエエか?」

「はい、なんですか?」

無粋なことは理解していたが、聞かずにはいられなかった。

「あの日…跡部を呼び止めた日な、あの時、ホンマは何を言おうとしとったん?」

瞬間、なまえちゃんの表現が凍りついたように固まった。

黙って言葉を待っていると、長い沈黙の後、淋しそうに話し出した。

「確かめたかったんです。私のことを覚えてくれているのかなって。それで、見事に忘れられていたわけです。……初恋、だったんですよ。」

なまえちゃんは泣きそうな顔で笑った。

上手く笑えていない、その表情に胸が痛む。

「跡部には何も言わへんの? 話したら、思い出すかもしれへんやろ?」

俺の言葉に、なまえちゃんはゆっくりと頭を振った。

「いいんです。」

静かな声ではっきりと言ったけれど、その瞳には、今にも溢れそうな涙が溜まっていた。



ただ一人を愛する

君に想われるあいつが羨ましいと思った。


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