あなたとなら幸せになれる | ナノ

ヒロイン視点


ジャージの上から胸元に触れれば、かすかな感触が伝わってくる。

矛盾、しているだろうか。

報われることを諦めたと言いながら、【たからもの】を手放せないでいる私は。

だけど、思い出を胸に抱えることくらいは許して欲しい。

「…って、だめだめ! 作業に集中しなきゃ。」

意識を現実へと引き戻し、パソコンでのデータ整理を再開する。

部室の外からはボールを打つ音がしている。

私は今、テニス部のマネージャーをやらせてもらっていた。

理由はわからないけれど、私を推薦してくれた忍足先輩のおかげだ。

さすがに入部のあいさつをした時には、あの人は少し驚いていたけれど、なにも言われなかった。

当然だと思うけれど、身勝手な私は少し悲しかった。

「だから、集中してやらないと。」

ぱんっと頬を両手でたたいて気合を入れ直し、私は今度こそ作業に意識を集中した。



あの後はちゃんと集中して作業に取り組み、気付いた時には部活が終わる時間になっていた。

「とりあえず、今日はここまでかな。」

データのバックアップを取ってからパソコンの電源を落としたところで、部室のドアが開いた。

「お疲れさまです!」

先に挨拶をして、イスから立ち上がって振り返る。

「お疲れさん、なまえちゃん。仕事はどうや?」

最初に部室の中に入ってきたのは忍足先輩だった。

「問題ないですよ。過去のデータの打ち込み作業だけですから。」

「頑張っとるなぁ。えらいえらい。」

ゆるく笑う忍足先輩に、なぜか頭をなでられる。

自分に与えられた仕事をするのは当然だから、ほめられるようなことではないのに。

だけど、忍足先輩の手つきは優しくて、頭をなでられるのは心地良かった。

大人しく頭をなでてもらっていると、またドアが開いた。

中に入ってきた人の姿を見て、心臓がどくんと波打った。

「お疲れさまです、…部長。」

いまだに変に緊張してしまって、声も顔も強ばってしまうのが自分で分かる。

「…ああ。」

だけど、そんな私を気にした様子などなく、あの人は奥のロッカールームへと消えていった。

向けられた背中に、胸がずきずきと痛む。

こんなことくらいで泣いてはいけないと、奥歯をぐっと噛み締める。

だっで、何も打ち明けずにいることを選んだのは私なのだから。

ほんの少しでいいから、あの人の役に立ちたい。

そして、愛されなくていいから、あの人のそばにいたい。

そんなのは全部、私の独りよがりでしかない。



あなたを想って心が痛む

どうか、あなたを想うことを許してください。


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