あなたとなら幸せになれる | ナノ

ヒロイン視点


痛いくらいにきつく抱きしめられている。

酸素が足りなくて頭がくらくらして、膝にはあまり力が入らない。

だけど、私は少しも抵抗しなかった。

涙でにじむ視界に映るのは、悲痛な表情で私に口付ける忍足先輩の姿。

ひどく胸が痛む。

自分の目の前で傷付いているこの人の姿が、ただ悲しい。

あの人が私を思い出してくれたということは頭の中から消えてしまっていた。

――もう分かった。

自分の気持ちが、はっきりと。

本当はもっと前に気付いていたかもしれない。

けれど、私は答えを出すのをためらった。

ずっと想ってきた人への気持ちを忘れるのが怖かったから。

私が私でいられなくなる気がして。

だけど、私の迷いが忍足先輩を傷付けたのなら、私はなんて愚かなのだろう。

大切なものは手を伸ばせば届くところにあったのに。

あまり力の入らない手を持ち上げる。

「っ!」

私の指先がかすかに頬に触れた瞬間、忍足先輩は凍りついたように固まった。

そして、次の瞬間には飛びのくように忍足先輩は私から離れた。

「俺、は…」

まるで怯えたような表情をする忍足先輩の胸に、自分から抱きつく。

「アカンて、なまえちゃん……俺…」

声も身体も震えている忍足先輩は、強くはない力で私を引き離そうとする。

そんな忍足先輩に向かって、私はありったけの想いを込めて微笑みかけた。

「好きです。」

どうか、伝わって欲しい。

「……ホンマ、に?」

「本当です。私は、あなたが好きです。」

もう一度、心を込めて言うと、勢いよく抱き締められた。

「ごめん、な……ありがとう。俺…」

私の耳に忍足先輩の少し掠れた声が届く。

「俺も、なまえちゃんが好きや。」

「…はい。ありがとうございます。」

広い背中に手を回して、自分からも大切な人を抱き締め返した。



私の恋を知ってください

いつの間にか、あなたに恋をしていたの。


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