あなたとなら幸せになれる | ナノ

忍足視点


廊下の角に消えていく跡部の後姿を見送ってから、なまえちゃんに向き直る。

「何があったん?」

どこか呆然としている様子のなまえちゃんに声を掛けるが、反応が無い。

「なまえちゃん? 大丈夫か?」

「……あ、はい。」

軽く肩に触れると、一応は俺を見てくれたが、なまえちゃんはまだ心此処に在らずという感じだ。

「跡部の奴に何か言われたんか?」

少なくとも険悪な雰囲気ではなかったが、簡単に心の整理は出来ないものだから心配になる。

「ええと、……思い出してくれた、みたいです。昔のこと。」

切なそうに笑ったなまえちゃんの言葉に、俺は急速に不安に駆られた。

「跡部が…思い出したって?」

今、俺の声は震えてはいないだろうか。

「そうみたいです。」

胸元を押さえて睫毛を伏せるなまえちゃんは今、何を思っているのだろうか。

「…それで、自分はどうするんや?」

「え…?」

少しも余裕のない俺を、なまえちゃんが戸惑ったように見る。

「跡部が自分との約束のこと、思い出したんやろ? せやったら…」

「……私、は…」

答えに迷うなまえちゃんは、やはりまだ跡部のことが好きなのか。

このまま跡部の元へ行ってしまうのか。

そして俺は、自分じゃない男の横で笑うこの子の姿を見るのか。

「っ、…嫌や。」

左の胸が抉られるように痛い。

「忍足、先輩…?」

「あいつには絶対に渡さん…っ!」

聞きたくない言葉が形にされる前に、俺はなまえちゃんの唇を塞いだ。

抵抗しようとしたなまえちゃんの後頭部に片手を回し、残った方の腕でその細い腰を引き寄せる。

なまえちゃんの固く閉じられた目蓋の縁から溢れた透明な涙が頬を伝う。

けれど、それには構わず、俺は呼吸を奪うような深い口付けを続けた。

こんな事をしても、腕の中に閉じ込めたこの子の気持ちは繋ぎ止められないというのに。



嫉妬の為の無実の犠牲

君を傷付けたくなんてなかったのに。


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