ヒロイン視点 「ウサギは気に入ってくれなかったみたいやのぅ?」 朝、生徒玄関で靴を履き替えていた私が聞き慣れない言葉に顔を上げると、いつかの銀髪の人が立っていた。 「ええと、……あ。うさぎ、というのは…まさか?」 「お前さん、鈍いのぅ。」 「う……それは残念ながら否定できません。」 私が少し凹みながら答えると、銀髪の人はおかしそうに喉の奥で笑った。 「面白いのぅ、お前さん。ところで、参謀とは上手くいっちょるんか?」 「さんぼう…?」 なんのことだろうと首をかしげる。 「柳のことナリ。」 「柳先輩には仲良くしていただいてます。」 答えながら、参謀というのは柳先輩のあだ名なのだろうかと、また首をかしげる。 「ほぉ……仲良く、ねぇ。」 「あ、あの…なにか?」 なんだか含んだような笑い方をされて、戸惑ってしまう。 「もっと仲良くなりたいと思わんか?」 「はい?」 「早く気付くといいんよ。」 意味がわからずにいる私に背中を向けると、その人は片手を軽く振って去っていった。 どうして、みんなはテニス部の人に詳しいのだろう。 柳先輩の知り合いのようだったから、“もしかしたら…”と思って友達に聞いたら、今朝の銀髪の人もテニス部の人らしい。 「このクラスだよね、確か。……いないなぁ。」 ドアから教室の中を覗いて探してみるけれど、目立つ銀髪の人は見当たらない。 「お前、うちのクラスに用なのか?」 出直そうかなと思ったところで、赤い髪の人に声をかけられた。 「はい、あの、仁王先輩にお返しするものがありまして。」 「ふーん? じゃ、俺が渡しといてやるよ。」 「いいのですか?」 「おう、いいって、そんくらい。」 「ありがとうございます。これですので、よろしくお願いします。」 カラッと笑った赤い髪の人に、制服のポケットから取り出したピンク色のうさぎの髪ゴムを手渡して頭を下げた。 「みょうじ、今日はどうしたんだ?」 「柳先輩! こんにちは。この間のうさぎの髪ゴムを返しに来たんです。」 教室に戻る途中、柳先輩とばったり廊下で会った。 「あれを?」 「はい。柳先輩と同じテニス部だったのですね、銀髪の方は。」 「仁王か。」 「はい、その仁王先輩です。でも、いつあんなイタズラをされてしまったのか、やっぱり記憶にないのですが。」 私が苦笑いすると、柳先輩はあらかさまに渋い顔をした。 「柳先輩、どうされたのですか?」 「何でも無い。気にするな。」 「いえ、気になります。気になるに決まっています。」 「みょうじ…?」 「あ、いえっ、なんでもありません! し、失礼しますっ」 不思議そうな顔をされ、なぜか気まずくなってしまった私はあわててその場を後にした。 (私は…今、なにを?) 穏やかな変化 徐々に変わっていく感情の色と形。 ← |