私の心の姿です | ナノ

柳視点


静かに雨が降る中、角を曲がったところで自分の家の前に誰かが立っているのが見えた。

道路から他人の家の庭を覗いている不審な少女が一人。

近付いていくと、見慣れた制服を着ていることが分かった。

「何をしている。」

「ひゃっ!?」

俺が後ろから声を掛けると、その少女は大きく肩を跳ねさせた。

「すっ、すみません! ええと、その……、あ!」

こちらを振り返り、傘を差しながら深く頭を下げたかと思えば、少女は急に顔を上げた。

「もしかして、こちらのお家の方ですか?」

「そうだが、うちに何か用なのか?」

「はい、お願いがありまして…っ」



熱心に庭の紫陽花を撮っている彼女―みょうじなまえと名乗っていた―を縁側の柱に凭れながら見る。

ファインダーを覗く目は真剣そのものだが、楽しげな色を多分に含んでもいた。

聞けば、二つ年下のみょうじは写真部に所属しており、花を主な被写体にしているらしい。

先程は我が家の庭に植えられている白い紫陽花が目に留まり、立ち止まっていたそうだ。

「どうもありがとうございました!」

満足したのか、みょうじは俺の前に来て礼儀正しく頭を下げた。

「いいや。それで、良い写真は撮れたのか?」

「ええと、……それは現像してみませんと、なんとも言えません…」

どこか気まずそうにするみょうじの様子から察すると、まだ初心者なのかもしれない。

だが、少し興味はある。

「写真が出来上がったら見せてもらっても構わないか?」

「はい、ぜひ!」

勢いよく返事をしたのも束の間、みょうじは困ったように眉尻を下げた。

「その…あまり期待されてしまうと困ってしまいますけれど。まだカメラを始めたばかりなので…」

「…フッ」

あまりに分かり易い振る舞いが何となく可愛らしく思え、俺は小さく笑った。

「え。なに…ですか?」

少し戸惑った様子のみょうじに気付き、俺は表情を正した。

「いや、気にするな。写真を楽しみにしている。」

「っ…、はい!」

誤魔化すように言った俺の言葉に、みょうじは少し照れた顔で、だが嬉しそうに笑った。


● ● ●


その日、帰宅した俺は玄関の郵便受けにオフホワイトの封筒が入っていることに気付いた。

切手の貼られていないそれには、俺への宛名が丁寧な字で書かれていた。

裏を返して見れば、やはりそこにはみょうじの名前があった。

自室で封を開けると、封筒と同じ色の便箋と数枚の写真が入っていた。

手紙には先日の礼と直接渡せなかった事への謝罪が書かれていた。

恐らく、学校では渡す機会が無かったのだろう。

写真はといえば、詳しくない俺でも技術的な拙さが分かった。

だが、撮った人間の人柄が滲み出ているのか、不思議と温かみを感じる。

俺はそんなみょうじの写真を単純に好きだと思った。

便箋と写真を封筒に戻して何となしに庭を眺めると、綻びそうな百合の蕾が目に留まった。

何故か、その小さな桃色の蕾にみょうじの姿が重なった気がした。



君にまた会いたい

理由など無く、そう思った。


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