ヒロイン視点 友達とお昼ごはんを食べ終わった後、今日はどこに写真を撮りに行こうか考えながら廊下を歩いていた。 (あ、柳先輩だ。) 視線の先に階段を下りていく柳先輩の後ろ姿を見つけて、無意識にその場で立ち止まる。 階段の踊り場で不意に顔を上げた柳先輩と目が合って、淡く微笑まれたような気がした。 一瞬見とれてから、あわてて下げた頭を上げると、もう柳先輩の姿はなかった。 「嬉しそうじゃな。」 「えぇっ?」 突然かけられた声に振り返れば、近くに仁王先輩が立っていた。 「顔がニヤけとった。」 「うっ…」 指摘され、両手で押さえた頬は少し熱を持っていた。 「柳が好きじゃって顔に書いてあるぜよ。」 「っ、……それは、その…」 いきなり気持ちを言い当てられ、大きく動揺してしまう。 隠さなければいけない、というわけでもないのだけれど。 「のぅ、みょうじ。好きなら、もっと近付きたいとは思わないんか?」 「仁王先輩…」 前にも似たようなことを聞かれたのを思い出す。 あの時は意味がわからなかったけれど、今ならわかる。 好きだという想いだけで心が満たされて、幸せだというのは決して嘘じゃない。 だけど、そばに…ずっと隣にいたいと願ってしまうのも、また真実だ。 「仁王くん、何をしているのですか? 早くしないとミーティングに遅れますよ。」 「分かっとうよ、柳生。…じゃあの、みょうじ。」 仁王先輩はくしゃりと私の頭をなでると、眼鏡をかけた生真面目そうな人と歩いていってしまった。 ● ● ● ここからの景色を見るのは二度目だ。 少し前に約束した通り、柳先輩と一緒に、沈んでゆく夕陽に染められる街並みを眺めていた。 今まで見たどんな夕暮れよりも綺麗だと思いながらも、私の意識は隣に立っている柳先輩にばかり向かっている。 この人が好きで好きで仕方がない。 もっともっと近づきたい。 加速してゆく自分の気持ちを抑え込むように、私はグッと手を握りしめた。 「…どうした?」 空気にそっと溶け込んでゆくような静かな声に、私は言葉を返せない。 口を開いたら、過ぎた願いを言葉にして、この大切な時間を失ってしまいかねないから。 「みょうじ?」 だけど、私は愚か者だ。 覗き込んでくるその瞳がとても優しいから、伝えずにはいられなくなってしまう。 「好きです。私、柳先輩が好きなんです。」 瞬間、柳先輩が息を飲んだのがわかった。 「今のは……本当か?」 「はい。だから、私……柳先輩のそばにいたいです。…だめ、でしょうか?」 自分の声には懇願するような響きが混じっていた。 「駄目なものか。」 そっと私の頬に触れた柳先輩の手がかすかに震えているのは、どうしてだろう。 「俺もお前が好きだ。傍に居て欲しいと思っている。」 「っ…、……柳、先輩…」 優しく微笑み返されて、泣きたくなるほど幸せだと思った。 「好きだ、みょうじ。」 そっと抱き寄せられ、心臓が高く音を立てる。 柳先輩が少しに笑ったような気配がして、身を固くした私を抱き締める力が強まった。 伝わってくる体温が、すごく優しい。 私はドキドキしながら柳先輩の背中に手を回し、身体を預けて目を閉じた。 地面には、一つに重なり合った影が長く伸びていた。 あなたに伝えたいこと そして、重なった想い。 ← |