私の心の姿です | ナノ

柳視点


「柳、俺に感謝しろよぃ?」

部室で着替えを終えて、今日の練習試合の内容をまとめようかと考えていた時だった。

「何だ、いきなり。」

脈絡の無い丸井の言葉に、俺は僅かに眉根を寄せた。

「俺のおかげでみょうじにいいとこ見せれたんだからな。」

その言葉で合点がいった。

みょうじが試合を観に来るどころか、練習試合があることを知っている確率さえ低かった。

それにも関わらず、みょうじが試合を観戦していたことが疑問だったのだ。

「お前の差し金だったのか。」

「その言い方、人聞き悪くね? せっかくお前のためにみょうじのこと誘ってやったのに。」

「俺はそんな事は頼んでいない。」

「お前なぁ、俺らは応援…」

丸井の言葉は、ドアが開けられた音に遮られた。

「参謀、お前さんに客じゃ。」

部室の入り口に目を向ければ、仁王の後ろに申し訳無さそうな顔をしたみょうじが立っていた。

「んじゃ、俺は帰るぜぃ。じゃあな、柳。…お前はゆっくりしていけよ。」

「じゃあの、お二人さん。」

「え、あ……はい。お疲れさまでした!」

丸井はみょうじの肩を軽く叩き、仁王は意味深な視線を俺に寄越してから部室を出て行った。

「あの、すみません。たまたま仁王先輩にお会いしまして……その、遠慮したのですが…」

「お前は気にするな。」

恐縮している様子のみょうじに、なるべく優しい声音で言ってやる。

「…はい。」

いくらか安心したような表情をしたのも束の間、何故かみょうじは浮かない様子だ。

「どうした? 人が多くて疲れたのか?」

「いいえ、大丈夫ですよ。」

笑顔を見せるみょうじだが、それはいつもとは違っており、明らかに無理をしているのが分かる。

「この後、時間はあるか?」



学校から少し離れた場所にある高台までみょうじを連れて来たが、この場所自体には特に何がある訳でもない。

だが…

「ここからの景色が好きなんだ。」

広がる海と海岸に沿った街並みに目を向ければ、みょうじもそれに倣った。

「すごい……綺麗。」



暫く見入っていたみょうじは、眼前の景色から目を離して俺を見上げた。

「ありがとうございます。素敵な場所に連れて来ていただいて。」

いつものような笑みを見せたみょうじに、ようやく安堵する。

「気に入ったようで何よりだ。いつか、お前にここからの景色を見せたいと思っていた。…夕暮れの時も綺麗なんだ。そのうち、また一緒に来よう。」

「はいっ、楽しみにしています。……あの、遅くなってしまいましたが…今日の練習試合、見ていました。完勝でしたね、おめでとうございます。」

「ああ、応援に来てくれていたのは分かっていた。有難う。」

僅かに微笑んで礼を言えば、みょうじは照れたような表情をして俺から少し視線を逸らした。

「いえ、そんな……、…柳先輩?」

「っ、…何でも無い。」

無意識にみょうじに触れようとしていた自分に気付き、俺は伸ばしかけた手を引いた。



愛情を散りばめる

君には、いつだって笑っていて欲しいから。


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