偽りの言葉 | ナノ


仁王視点


『あんな子のどこがいいの?』

そんな言葉を吐いたのは、俺に告白してきた女の一人だ。

特に隠すことはしなかったから、俺となまえのことは周知の事実らしい。

(どこ、なんじゃろうな。)

最初は、ただの興味本位だった。

自分から周りの世界を切り離しているようななまえが気になって、一方的に構っていた。

警戒心の強い野良猫を手懐けるのに少し似た感覚だ。

(情が移ったんかのぅ。)



「仁王、大丈夫?」

「え……ああ、何でもなかよ。」

いつの間にか、屋上で寝転がっていた俺の顔をなまえが覗き込んでいた。

「そう?」

「ああ、それよりどうしたんじゃ?」

「……なにもない…けど、一緒にサボる。」

「何じゃ、そんなに俺と離れたくないんか?」

茶化したように言った俺に、なまえは何も言葉を返さなかった。

そして、俺の隣に来ると丸まるような体勢でコンクリートの上に横になった。

「ようやく梅雨明けじゃな。」

久しぶりに目にする青空は、痛いくらいに眩しい。

俺は眩しさに目を細め、いつものように丸まって寝ているなまえに視線を向けた。

なまえは黙ったまま、俺のシャツの裾を掴んできた。

「今日……告白、されてたよね。」

「見てたんか。」

「…たまたま、だけど。」

「断ったぜよ。」

「知ってる。……いなくなるかと思った。仁王が…私のそばから。」

「俺はどこにも行かんよ。」

瞳を頼りなく揺らすなまえに安心させるように笑いかけながら、俺はさっきの答えが分かった気がした。

俺は誰かに必要とされたかったのだと思う。

自分を…自分だけを必要としてくれる存在が欲しかったのだ。

だが、それはきっかけに過ぎないだろう。

俺が今、欲しいのは、他の誰でもないなまえだ。

なまえだけがいれば、それでいい。

「好き。…仁王が好き。」

突然の言葉に、俺は勢い良く身体を起こした。

寝転がったままのなまえが俺を見上げる。

「今の、本当か?」

「私の『好き』は、綺麗じゃないけど…そばにいて欲しいのは、仁王だけだから……ごめん。」

なまえは酷く悲しそうに笑った。



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