偽りの言葉 | ナノ


ヒロイン視点


まだ梅雨は明けない。

今日は雨こそ降っていないが、空は暗い灰色の雲に覆われている。

私は無言で隣に座る仁王の肩に頭をもたれさせた。

「甘えたやのぅ。」

頭をなでてくれる仁王の声が優しくて、心地良さを覚える。

それと同時に胸の奥が軋む。

ごめん、と心の中で呟いた。

「また、余計なこと考えとるじゃろ?」

「…そんなことないよ。」

見透かされているのは分かったけれど、気付かないフリをする。

「嘘吐きじゃな。」

そう言った仁王は私の頭にそっと口付けた。

あれ以来、仁王は私を求めない。

唇には口付けなくなった。

それは、きっと私が仁王を好きじゃないと言ったから。

私は残酷だ。

仁王の想いに応えずに、けれど寄りかかっている。

「なまえ。」

いつの間にか滲んでいた涙。

それを優しく指先で拭われる。

この温もりを失くしたくない。

ずっとそばにいて欲しい。

そう思う心の行き着く先はどこなのだろうか。

「仁王。」

「ん? どうした?」

「…ごめん……、…っ」

「なんで泣くん?」

「っ、……だって…」

背中をなでてくれる仁王の手が温かくて、ますます縋ってしまう。

「お前さんが悪い訳じゃなか。我侭を言ったんは、俺のほうじゃからの。」

「……そんな、こと…ない。傷付けているのは、私…だから…」

「俺は傷付いてなんてないぜよ。」

「そん、な…優しくしないで。…苦しい。……わ、たし…なにも、できないのに…っ」

「何かして欲しくて傍にいる訳じゃなか。俺は自分のしたいようにしてるだけやけぇ。だから、気に病まんでくれ。…そのほうが俺は辛いんよ。」

「…に、おっ……っ、……ぅ…っ」

私はいつまで仁王に救われるのだろう。

あと何度、私は仁王に救われるのだろう。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -