偽りの言葉 | ナノ


ヒロイン視点


目が覚めると感じた温もり。

自分の手を包む温かさに泣きたくなった。

どうして仁王がここにいてくれるのだろう。

「起きたか。」

少し俯いていた仁王が顔を上げて私を見る。

「…なんで、いるの?」

「さあのぅ。」

「なんで?」

「俺はお前さんを置いていったりせんから。」

その言葉が引き金だった。

一度泣き出すと、涙はなかなか止まってくれなかった。

そんな私を仁王はなにも言わずに抱き締めてくれて、その優しさに私はまた泣いた。



「意外と泣き虫じゃな、なまえは。」

ようやく私が泣き止んだ頃に、仁王が言った。

「ごめん。」

「謝らんでもええよ。」

「……ごめんなさい。…もう、止めようって…思ったのに…っ」

「何をじゃ?」

「っ…わ、たしは……ただ…弱いだけの、人間で……独りが…嫌で……ズルイから…仁王に縋った。でも、そんなのっ……ダメ、だから…」

「それで『別れる』か。」

「うん。……でも結局、また甘えて……だから…ごめんなさい。」

「俺は…お前さんに別れるって言われて、嫌われたと思ったんじゃよ。それで、えらく落ち込んだ。それで漸く気付いた。……俺は自分でも気付かんだけで…本当に、お前さんを好きだったんじゃ。」

仁王を見ようとしたら再び抱き締められて、その表情は窺い知れなかった。

「それなのに、俺は自分勝手にお前さんを踏み躙っとった。…でも、それでも、俺はお前さんの傍にいたい。……許して、くれるか?」

「仁王が謝ることなんて、ないよ。…利用したのは私だから。」

「…どうしようもないのぅ。俺たちは。」

自嘲気味に響く仁王の声。

「そう、だね。」

「それで…俺は傍にいてもいいんか?」

「ダメだよ。」

「どうして。」

「私は、きっと…仁王が私のことを想ってくれているのと同じようには……仁王のことを想っていない。」

そばにいて欲しいとは思うけれど、その理由は――

「なら、お前さんが俺を好きなれば問題ない訳じゃな。」

「……え?」

「覚悟しときんしゃい。」

私の額にひとつ口付けを落として、仁王は笑った。

だけど、私は少しも笑えなかった。



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