偽りの言葉 | ナノ


ヒロイン視点


寒い。

寒くてたまらない。

独りで震えていると、扉の開く音が耳に届いた。

コンクリートの地面に寝転んだまま視線だけを巡らせると、屋上に来たのは仁王だった。

いつからだろう。

仁王が私に近付いてきたのは。

はっきりとは覚えていない。

ただ気付いたら、いつの間にかそばにいるようになっていた。

仁王は口を開くこともなく、いつものように私の近くに腰を下ろした。

私たちの間を湿った風が吹き抜ける。

いつもの近過ぎない距離と静寂が、今日はひどく――

「……なん?」

どうして私はこんなに弱いのだろう。

こんなことはいけないと分かっているのに。

気付けば、仁王に縋っていた。

歯止めをかけようとする意志とは真逆に、仁王の首に回した腕に力がこもる。

少し間を置いて、仁王は私の身体を抱き締めてきた。

「お前さん、寂しいんじゃろ?」

「…違う。」

「俺の手を取りんしゃい。俺はお前さんを好いとう。」

突然の告白。

それが偽りであると、なんとなくだが感じた。

でも、私はそれを受け入れた。


● ● ●


私と仁王。

この関係はなんだろう。

私は仁王をなんとも思っていない。

おそらく仁王は私を本当に好きではないだろう。

だけど、付かず離れずだった距離は変化した。

仁王は私の領域に入ってきている。

一人暮らしをしている私の部屋にある仁王の姿。

あまり違和感はなく、嫌だとも思わない自分が不思議だ。

私は黙ったまま、フローリングの床に座っている仁王の背中に寄りかかった。

「どうしたんじゃ?」

「別に。」

伝わってくる温もりが心地良いわけではない。

落ち着くわけでも、心が安らぐわけでもない。

けれど、ここから動けないのはどうしてだろうか。

仁王の背中から離れ、冷たく固い床に転がる。

そのまま目を閉じようとしたら、仁王に頭をなでられた。

それがそんなに嫌じゃなかったから、私は大人しくされるがままにしていた。

少し眠くなって目を閉じたら、こめかみに柔らかい感触がした。

口付けられたのだと気付く前に、口を塞がれる。

だんだんと深くなっていく口付けと共に肌を暴かれていく。

私はそれに抵抗しなかった。



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