![](//static.nanos.jp/upload/k/kanzennaru/mtr/0/0/20240224112714.png)
ヒロイン視点
寒い。
寒くてたまらない。
独りで震えていると、扉の開く音が耳に届いた。
コンクリートの地面に寝転んだまま視線だけを巡らせると、屋上に来たのは仁王だった。
いつからだろう。
仁王が私に近付いてきたのは。
はっきりとは覚えていない。
ただ気付いたら、いつの間にかそばにいるようになっていた。
仁王は口を開くこともなく、いつものように私の近くに腰を下ろした。
私たちの間を湿った風が吹き抜ける。
いつもの近過ぎない距離と静寂が、今日はひどく――
「……なん?」
どうして私はこんなに弱いのだろう。
こんなことはいけないと分かっているのに。
気付けば、仁王に縋っていた。
歯止めをかけようとする意志とは真逆に、仁王の首に回した腕に力がこもる。
少し間を置いて、仁王は私の身体を抱き締めてきた。
「お前さん、寂しいんじゃろ?」
「…違う。」
「俺の手を取りんしゃい。俺はお前さんを好いとう。」
突然の告白。
それが偽りであると、なんとなくだが感じた。
でも、私はそれを受け入れた。
● ● ●私と仁王。
この関係はなんだろう。
私は仁王をなんとも思っていない。
おそらく仁王は私を本当に好きではないだろう。
だけど、付かず離れずだった距離は変化した。
仁王は私の領域に入ってきている。
一人暮らしをしている私の部屋にある仁王の姿。
あまり違和感はなく、嫌だとも思わない自分が不思議だ。
私は黙ったまま、フローリングの床に座っている仁王の背中に寄りかかった。
「どうしたんじゃ?」
「別に。」
伝わってくる温もりが心地良いわけではない。
落ち着くわけでも、心が安らぐわけでもない。
けれど、ここから動けないのはどうしてだろうか。
仁王の背中から離れ、冷たく固い床に転がる。
そのまま目を閉じようとしたら、仁王に頭をなでられた。
それがそんなに嫌じゃなかったから、私は大人しくされるがままにしていた。
少し眠くなって目を閉じたら、こめかみに柔らかい感触がした。
口付けられたのだと気付く前に、口を塞がれる。
だんだんと深くなっていく口付けと共に肌を暴かれていく。
私はそれに抵抗しなかった。
←