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ヒロイン視点
私と先輩の距離は前よりも近付いたと思う。
だけど、関係は変わっていない。
先輩と後輩。
それ以上でもそれ以下でもない。
ずっと先輩のそばにいたいのなら、このままじゃダメだって分かってる。
(欲張りになったな、私は。)
自分の気持を自覚してすぐは、先輩に会えるだけで嬉しくて、少しでも話せたらもっと嬉しくて。
今でもそれが嬉しいのは変わらないけれど、それ以上を望んでいる。
でも、私の気持ちを伝えて、それで先輩からどんな答えが返ってくるだろうか。
分からない。
だから怖い。
(先輩の気持ちが知れたらいいのに。)
● ● ●(あと少し、なんだけど。)
本棚の上のほうにある本を取ろうと、つま先立ちで手を伸ばすけれど、指先が届きそうで届かない。
図書館には踏み台がいくつか置いてあるのだけれど、ここが奥まった場所だからなのか近くには見当たらなかった。
それに、頑張ればどうにか手が届きそうなのだ。
いったん背伸びをやめて、ふぅっと息を吐いてから、もう一度ぐっと踵をあげる。
精いっぱい手を伸ばして頑張ってみるけれど、すぐに足がぷるぷるしてきた。
「やっぱりダメ、かも。」
「一体いつまで頑張る気だ?」
「っ、…えぇっ?!」
聞こえるはずのない声に驚いて体勢を崩しそうになった私は、目の前の本棚に手をついた。
そして声のしたほうに顔を向けると、そこには少し呆れたような顔をした先輩が立っていた。
いつから見られていたのだろうと内心あせっていると、先輩は私のほうに近づいてきた。
「どの本を取りたいんだ?」
「あ、えっと……緑の背表紙の…」
先輩に恥ずかしいところを見られていたのだと、じわりと頬が熱を帯びてくる。
「ほら、これでいいんだろ。」
いとも簡単に取ってくれた先輩から手渡された本を受け取り、「ありがとうございます」と目を伏せながら返す。
「本当に…目が離せない奴だな、お前は。」
「ごめんなさい。いつもご迷惑かけちゃってますよね。」
先輩はいつも助けてくれて、それに甘えて喜んでいる自分がいることに罪悪感があって、返す声が小さくなってしまう。
「別に、迷惑とは言ってないだろ。」
「でも……」
そのうち先輩に愛想をつかされてしまうのではないかと不安になってしまう。
「だから、お前の面倒を見るのは……嫌いじゃない。」
本当かなと、うつむいていた顔を上げて先輩を見る。
「っ、お前な……いい加減気付けよ。俺がわざわざ…っ」
一体なんのことか分からなくて、先輩を見上げたまま私は首をかしげた。
「……いや、何でもない。」
なぜだか耳を赤くした先輩はくるりと私に背を向けた。
だけど、赤くなっている耳は髪に隠れていないから、私からは見えたままだ。
怒りそうだから言えないけれど、先輩のこういうところは可愛いと思ってしまう。
どうして照れているのかは分からないけれど。
――やっぱり好きだなぁ。
先輩の背中がビクッと揺れて、立ち去ろうとしていた足が止まった。
少し間を置いてから体ごと私のほうに振り向いた先輩の顔が真っ赤で、私は驚いた。
急にどうしてと考えて、今さっき「好き」と思っただけじゃなくて、口に出してしまっていたのだと思い至った。
かぁっと一気に顔どころか全身が熱くなる。
「ぁ……その、ちっ、ちがっ、くて…っ」
こんな形で伝えるつもりじゃなかったのに、どうしたらいいのだろう。
じわじわと目に涙がたまってくる。
泣きたいわけじゃないのに。
「違うのか?」
いつの間にか目の前に来ていた先輩の声が降ってきた。
言葉が出なくてうつむきそうになったけれど、頬に添えられた先輩の手がそれを許さない。
私の頬が熱いからなのか、先輩の手がずいぶんと冷たく感じる。
「さっきの、取り消すなよ。」
先輩が赤い顔のまま言った言葉の意味を考えられるほど頭が働かない。
黙ったまま先輩の顔を見つめていると、先輩は意を決したようにぐっと口元を引き結んだ。
そして、すごく真剣な顔つきになった。
「俺は、お前が好きなんだよ、みょうじ。」
耳に届いた言葉に、目にたまっていた涙があふれる。
「っ、……わ、私もっ……好きです…っ」
(2023.10.06)
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