そばにおいて | ナノ

ヒロイン視点


委員会の編成上、この学校では啓発ポスターの作成と掲示は報道委員の仕事に含まれている。

啓発の内容は、健康習慣や交通安全のほか学校生活に関することだ。

今日は委員のみんなが書いてきたポスターを手分けして校内に貼ることになっていた。

なお、掲示物が剥がれたり破れたりしていないか余計なものが貼られていないかなど、掲示板のチェックも同時に行う。

私は風邪で同じクラスの子が休んでいたため、同じくもう一人の委員がいない(用事があって帰ったそうだ)日吉先輩と組んで校内を回っていた。

「これは古いから剥がしていいですよね。」

「ああ。…というか、なんで去年のが残ってるんだ? 前に担当した奴、サボってたんじゃないのか?」

「時間がなくて急いでいたとか単純に見逃しただけかもしれませんよ?」

高い位置にあるお知らせのプリントを剥がしている先輩にそう返しながら、目の前に貼られているプリントに刺さっている画鋲を抜いていく。

「お人好しだな、お前は。そんなんじゃ他人にいいように使われるぞ。」

「そうですか?」

「そうなんだよ。だから…」

「え? なんですか?」

後半が聞き取れなくて首を傾げると、先輩は眉間にしわを寄せた。

「何でもない。それより、あとは問題ないみたいだな。さっさとポスター貼るぞ。」

「あ、はい。」

足元の壁に立てかけてあるポスターの束から一枚を抜き取って先輩に渡す。

先輩は受け取ったポスターを掲示版の空いているスペースに貼ると、それをじっと見た。

「お前、まともな絵が描けたんだな。」

貼ったばかりのポスターは、ちょうど私が描いたものだった。

「えっと、……先輩がどう思っていたのか分かりませんけど、絵を描くのは好きですよ?」

自慢できるほど上手ではないけれど。

「残念だな。下手だったら思いっきり笑ってやるつもりだったんだが。」

なんて意地悪そうに笑う先輩に、少しくらい言い返していいのかもしれないけど、そんな気持ちは起こらない。

先輩は出会ったばかりの頃に比べて、口数が増えたし、いろんな表情を見せてくれるようになった。

少しずつだけれど仲良くなれているのだと思うと、こうやって構ってもらえるだけで嬉しいのだ。

「何だ、いきなり黙り込んで。」

無意識に見つめてしまっていた私は、こちらを向いた先輩と目が合って動揺した。

「っ、……な、何でもないです! 次の場所に行きましょう…!」

ドキドキと弾む鼓動を抑えながら足早に先輩の横を通り抜ける。

小さな声で「変な奴」と呟いた先輩はすぐに追い付いてきて、隣に並んだ。

私は熱を持ちそうな頬を隠すようにうつむき、早く足を動かすけれど先輩との距離は変わらない。

他に生徒のいない廊下に二人分の足音だけが響く。

「何か、気に障ったのか?」

沈黙を破ったのは、以外にも先輩のほうからだった。

「い、いえ、そんなことは……」

いくらか冷静さを取り戻していた私は、様子をうかがうように声をかけてきた先輩にもごもごと答える。

「…そうか。」

先輩は声がどこかほっとしたように聞こえたのは気のせい、だろうか。

分からないけれど、せっかく先輩と一緒にいるのに気まずくなるのは嫌だ。

何か話そうと、頬の熱が引いているか手の甲で確認する。

「お前を見てるとからかいたくなるんだよ。」

また先に口を開いたのは先輩で、私は思わず隣に顔を向けた。

見上げた先の先輩はまっすぐ前を見ている。

「それに、俺がからかうのはお前ぐらいだからな。諦めろ。」

すごく理不尽なことを言われているのだと思う。

だけど、私には【特別】だと言われているように聞こえて、つい笑みがこぼれた。

「ひどいですよ、それ。」

「…何笑ってんだ。馬鹿だろ、お前。」

くすくす笑う私を横目で見た先輩が呆れたように言うけど、ぜんぜん怒る気なんて起きなかった。


(2023.09.16)
 

新しい情報では委員会の数が増えていて美化活動委員が追加されていましたね。設定のずれには目を瞑っていただけると助かります。


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