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ヒロイン視点
ここしばらく、私は校内新聞に載せる記事作りに取り組んでいた。
苦戦した部分はあったもののようやく形になってきたから、お昼休みに原稿をプリントアウトして記事をチェックしていたのだけれど……
誤字脱字が何カ所もあり、少し落ち込みながら持っていた赤ペンをデスクに置く。
最初から完璧なものを作るのは難しいと思うけれど、残念なことに私は毎回ケアレスミスが多いのだ。
小さくため息をついた後、落ち込んでいても仕方ない、と気持ちを切り替える。
早めに作業に取りかかっていたおかげで、まだ締め切りまで余裕がある。
少しでも良い記事を完成させるため、よくよく見直そうと、じっくり文章を追っていく。
「次の新聞用の記事、進んでいるみたいだな。」
突然かけられた声に手元から顔を上げると、今週はまだ会えていなかった先輩が立っていた。
「日吉先輩っ、こんにちは。」
思わぬ所で先輩の顔を見ることができて、自然と声がはずむ。
「ああ。隣、座るぞ」
「あ、はいっ、どうぞ。」
応えながら周りを見れば、パソコンルームはいつのまにか混んでいて、おおかたの席が埋まっていた。
先輩と会えた嬉しさにゆるむ口もとを、手に持っている原稿で隠す。
「先輩も校内新聞の作業ですか?」
パソコンの立ち上がりを待っている先輩に、小声で話しかける。
「ああ。だいたい内容はまとまったから、そろそろ書き始めないとな。」
「そうですか。」
出来ることなら、委員長に提出する前に先輩にも原稿を見て欲しかったのだけれど、先輩の邪魔はしたくない。
「その原稿、修正が終わったら見せろ。」
「…いいんですか?」
まだ起動中のパソコンの画面に視線を向けている先輩の横顔をおずおずと見る。
「いいも何もないだろ。校内新聞とは言えレベルの低い記事なんて冗談じゃないからな。」
「そ、そうですね。」
先輩の言葉に、私は改めて気を引きしめてから原稿と向き合うのだった。
「つまらない間違いは減ったし、内容も…まあ、それなりに分かりやすくなっているな。」
「あ、ありがとうございますっ」
まさか褒めてもらえるとは思っていなかったので、先輩の言葉を聞いて笑みがこぼれる。
だけど、すぐに先程のことを思い出して、苦笑いに変わってしまう。
「ただ、自分でチェックした時はひどかったので…もっと頑張らないといけませんね。」
先輩から原稿と赤ペンを受け取り、赤字の書き込みを確認する。
確かに、最初の頃に比べれば赤字の量は減っているけれど、まだまだ力不足だ。
もっとちゃんと先輩に認めてもらえるようになりたい。
「私、早く一人前になりたいです。」
「頑張って一人立ちしろよ。…前期が終わるまでには。」
原稿に落としていた目を先輩に向けると、フッと意地悪そうな笑みを返された。
報道委員になったばかりの私なら先輩の言葉に落ち込んでいただろう。
だけど、今の私は先輩が本気で言っていないことを知っている。
「頑張りますので、これからもご指導よろしくお願いします。」
イスに座ったまま両手を膝に置いて、先輩に頭を下げる。
「…まあ、仕方ないからな。お前の面倒は俺が見てやらないこともない。」
「はいっ、ありがとうございます。」
相変わらずな言い方をする先輩だけど、私は嬉しくて笑顔を返した。
「先輩は面倒見が良いですよね。」
「別に、そうでもないだろ。…他の奴のほうがもっと親切に教えてくれると思うが。」
「そうですか? 先輩も十分に親切といいますか、優しいと思いますけど。」
最初は本当に分からないことだらけで仕事ができず、文句や嫌味を言われたこともあった。
だけど、それでも先輩はアドバイスをくれたり時には手伝ってくれたりもして、見放さずにいてくれたのだ。
「っ、……そんな事を言う変な奴はお前だけだ。」
パソコンの画面を睨みながら苦々しく言った先輩だけれど、その耳の縁はほんのりと赤くなっていた。
(2017.09.10)
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