そばにおいて | ナノ

ヒロイン視点


何とか閉門前に学校に着いたけれど、今日は一日中くもり空で、校舎の中は薄暗い。

もっと暗ければ明りが点けられているのだろうけれど…。

一人では怖いけれど、早く教室に行って宿題のプリントを取ってこないと。

(……え?)

不意に、自分の以外の足音が聞こえた気がして思わず立ち止まる。

人気のない校舎に足音が反響していて、遠いのか近いのか、はっきりとはわからない。

もう遅い時間ではあるけれど、まだ閉門前だから誰か他の生徒がいるのだろう。

もしくは、先生の誰かかもしれない。

そう思う、というか、そうに違いないのに、背中を冷や汗が伝う。

(お、落ち着こう。)

オバケなんて非科学的なものはいない。

心霊現象と呼ばれるものは科学で説明がつくと、どこかの偉い先生がテレビで言っていた。

(いや、でも…)

すべてが科学で解明できるわけではない、とも言っていた気がする。

(だめだめ、余計なことは考えない!)

ぶんぶんと頭を勢いよく左右に振って、早く教室に行こうと足を踏み出そうとした時。

ぽん、と肩に何かが触れた。

「っ!!?」

驚き過ぎて声なんて出なかった。

「こんな時間に何してんだよ、お前。」

「…ぁ……」

聞き覚えのある声にほっとして、一気に全身から力が抜けた私はその場にへたり込んでしまった。

「おい、みょうじ?」

「ひ、ひよ、し…せんぱ…ぃ……」

廊下の床に座り込んだまま、斜め後ろに立っている先輩を振り返りながら見上げる。

「ったく、何やってんだよ。」

面倒くさそうにため息をついた先輩だけど、立てないでいる私に向かって手を差し出してくれた。

「あ……ありがとう、ございます。」

私はおずおずとその手に掴まり、引っぱってもらってどうにか立ち上がる。

「それで? 何をしてたんだ、一体。」

「宿題のプリントを忘れたので取りに来たんです。…先輩はどうしたんですか?」

「俺はこの間から噂になっている幽霊を探していたんだが…」

「っ、……オバケ、出るんですか…?」

震える声でおそるおそる聞くと、先輩は小さく息を吐いた。

「空振りだった。俺が調べた限り、ただの見間違いが原因だ。」

先輩は残念そうだったけれど、私はほっとして無意識に止めていた息を一気に吐き出した。

「そうですか。良かったぁ。」

「ところで、忘れたっていう宿題のプリントはもう取ってきたのか?」

「いえ、これから教室に行くところです。」

やっぱり一人だと怖いことには変わりないから、先輩についてきて欲しいと頼んでもいいだろうか。

でも、面倒とか迷惑とか思われるのも嫌で、ちらりと先輩の顔を見上げて様子をうかがう。

「……仕方ないから一緒に行ってやる。」

「え…?」

まだ何も言っていないのに、と驚く私の手を取って、先輩は薄暗い廊下を歩き出す。

「さっさとしろ。もう少しで校門が閉まる。」

「は、はい…っ」

握られた手に自分の鼓動が乱れるのを感じながら、私はあわてて先輩について行った。



自分のクラスに着くと、繋いでいた手はパッと離された。

それが残念ではあったけれど、先輩を待たせたらいけないと、急いで自分の机の中を確認する。

「ありました、プリント。」

「なら、早く帰るぞ。」

素っ気なく言った先輩はさっきと同じように私の手を掴んで教室を出た。

自分の手を包む大きな手に、また鼓動が速くなる。

きっと先輩は、私が怖がっていたから安心できるように手を繋いでくれているのだろう。

何も口には出さない先輩だけれど、その優しさが嬉しい。

(先輩のこういうところ、やっぱり好きだな。)

心の奥をくすぐるような甘い感覚。

だけど、甘く響く鼓動に、なぜだか胸が少し苦しくなる。

それはきっと、この少し冷たい手をずっとは握っていられないから。

それでも今だけは幸せな気持ちに浸っていたいと、私は先輩の手を少しだけ強く握り返した。


(2016.10.10)

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