※多少の加筆修正はしておりますが、以前に書いた短編「私をもっと知ってください」と同じ内容です。
ヒロイン視点
先輩と一緒に帰るのはあの雨の日以来で、今日が二回目だ。
次の校内新聞で同じ記事を担当することになり、その打ち合わせをしていたら帰るのが遅くなってしまった。
そうしたら、先輩が仕方なくという感じではあったけれど「送ってやる」と言ってくれて、私はまたその言葉に甘えたのだった。
夕闇に包まれた道を二人で歩いているけれど、残念ながら今回も会話がはずまない。
いろいろ話してみたいと思っているのに、会話の糸口が見つけられないのだ。
こっそり横目で先輩の様子をうかがうと、ぱちっと目が合った。
「ど、どうしたんですか?」
「別に。…お前こそ、何かあるんじゃないのか?」
「は、はい。いえ…ええっと、……あの、日吉先輩は何が好きですか?」
「…は?」
思いきり怪訝な顔をされてしまい、恥ずかしくなって自分の足元に視線を落とす。
「ごめんなさい、急に変なことを聞いてしまって。…今のは、なかったことにください。」
同じことを聞くにしても、もう少しどうにかならなかったのだろうか、私は。
きっと今ので、私は変な奴だと思われてしまったに違いない。
「食べ物ならぬれせんべいで、趣味だったら読書だ。」
どうしようとグルグル考えていた私に、先輩はそう答えてくれた。
完全に戸惑っていた―実際、そこそこの間があった―にもかかわらず丁寧に答えてくれたことが嬉しい。
先輩はあまり口数が多いほうではない。
「そうなんですね。ちなみに、本はどういったものを読むんですか?」
思わず口もとがゆるんだのを自覚しながら、会話を続けようと質問を続ける。
「学園七不思議とか、怪談ものだな。」
「そ、そうですか…。」
できれば、ここは別の答えを希望したかった。
「苦手なのか?」
「はい、怖い話はあまり得意じゃないです。」
あからさまに声のトーンが落ちて、先輩に図星を指されてしまった。
「うちの学校にも七不思議があるのは知っているか?」
「えっ、そうなんですか?」
そういう話題は避けていたこともあって、初めて聞いた事実に驚いて隣を歩く先輩の顔を見る。
そうしたら、先輩はニヤリというのがぴったりな不適な笑みを浮かべてきた。
「ああ、まず一つ目は…」
「ま、待ってください! 絶対に聞きたくないです!」
先輩が見たこともない嬉々とした様子で話し出そうとするから、私はあわてて自分の耳をふさいだ。
「……本当に無理なので止めてくださいね?」
先輩が口を閉じたのを確認してから、私は耳をふさいでいた両手を外した。
「そこまで怖がられると話し甲斐があるんだがな。今日は止めておいてやる。」
「明日でも明後日でも全力で遠慮します。…嫌がっている相手にわざわざ聞かせようとするなんて意地悪ですね、日吉先輩は。」
「知らなかったのか?」
何気ないその言葉に少し落ち込んでしまうのは、今の先輩と私の距離を感じるからだ。
「……はい。…私、日吉先輩のこと、あんまり知らないです。」
先輩とは委員会の仕事以外の個人的なことは話したことがほとんどないから。
私が知っているのは、先輩は部活でテニスをやっているということくらいで。
それで、こっそり練習を見に行ったことがあるのを、きっと先輩は知らないだろう。
「俺もお前のことはよく知らない。」
このままじゃダメだと、強く思う。
頑張って自分から一歩を踏み出さなきゃ、何も始まらない。
私は、もっと先輩に近付きたいから。
「日吉先輩、私…」
「だから、何か話せ。」
思いがけない言葉に、私は目をぱちぱちさせた。
もしかして先輩も私のことを知りたいと思ってくれている、のだろうか。
勘違いかもしれないけれど、そう考えたら嬉しくて自然と顔がほころぶ。
「はいっ ……あの、私は日吉先輩のお話も聞きたいです。」
「気が向いたらな。」
「ありがとうございます。楽しみにしていますね。」
「…物好きだな、お前は。」
この時、もう周りは暗くなっていたから、先輩の頬が少しだけ赤かったということを、私が知ることはなかった。
(2013.11.09 初掲)
(2016.01.23 再掲)
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