「あの、侑士くん…そろそろ離して?」 照れ屋な俺の彼女は可愛いと思うが、逃げようとするのは面白くない。 「嫌や。」 にっこりと笑顔で断り、自分の足の間に向かい合わせで座らせているなまえを抱き締め直す。 頬に唇を押し付けると、なまえは一瞬で真っ赤になった顔を俺の胸に埋めてきた。 「全然慣れへんなぁ。今は二人きりなんやし、そない恥ずかしがらんでもええと思うんやけど。」 「だって……すごくドキドキしちゃうんだもん。」 消え入りそうな声で零したなまえは俺のシャツをぎゅっと握り締める。 「ほんま可愛えなぁ、なまえは。…な、顔上げてや。」 「な、なんで?」 「ここままやとキス出来ひんやろ。」 赤くなっている耳に唇を寄せて囁くと、びくっとなまえの肩が跳ねた。 「嫌か?」 返ってくる答えを分かっていて聞く俺は意地が悪いと思う。 「……嫌じゃ、ない。」 小さな声で言って、おずおずと俺を見上げてくるなまえの熱を帯びている頬を片手で撫でる。 「好きやで、なまえ。」 恥ずかしそうに目を閉じたなまえに顔を近付けていく。 唇が触れる直前、その感覚はきた。 よりによってこのタイミングで…、と思った次の瞬間には、小さくなった俺はなまえの膝の上に乗っていた。 なまえを見上げれば、先程までの恥ずかしそうな表情はどこへやら、すごく輝いた目で俺を見ている。 「侑士くん、触っていい?」 「……にゃあ。」 好きにしたらいい、という意味で一鳴きする。 「ありがとう。」 人間の時とは違い、満面の笑みで俺に触れるなまえ。 「今日もふわふわだね。」 長めな毛の触り心地を気に入っているなまえは、俺の身体を撫でながら頬を緩ませる。 俺としては、なまえに可愛いがられるよりもなまえを可愛がりたいのだが。 …まあ、こういう顔を見られるのなら、この特異な体質も悪くはないと思う。 (俺もなまえには相当弱いよな。) ちなみに、今の俺はハチワレと呼ばれる白と黒のツートンカラーの猫で、「タキシードみたいな柄でカッコイイ」となまえは言ってくれている。 「やっぱり……猫、飼いたいなぁ。」 「にゃっ!」 なまえの言葉に、俺は短く鳴いて尻尾をなまえの腕に巻き付けた。 普通の猫だろうが、自分以外の奴がなまえに抱き締められたり撫で回されたりするのは非常に気に入らない。 「侑士くん?」 睨んだつもりだが、どうにも伝わっておらず、なまえは小さく首を傾げる。 今の姿で抗議するのは諦め、小さく息を吐いた俺はなまえの膝に乗った。 「侑士くん、眠くなっちゃった?」 なまえの膝上で身体を丸めた俺は小さく尻尾を振って答え、そのまま目を閉じた。 元の姿に戻ったらなまえが猫を飼うのを阻止しなければ、と密かに決意しながら―― (2017.07.15) ← |