(マジで最悪だ。) 公園のベンチの下で雨宿りをしてるけど、雨が晴れる気配はない。 せっかく久しぶりの休みだったのに猫の姿になってしまったのが面白くなくて、無計画に家を出たのが間違いだった。 俺は急に降り出した雨に打たれ、あっという間にずぶ濡れになってしまった。 全身の毛が濡れて気持ち悪い。 ため息をつくと、ヒゲから水滴が落ちて地面に小さな染みを作った。 (このままじゃ風邪引いちまうか。) とにかく家に帰ろうと覚悟を決めてベンチの下から出ていくと、公園のフェンス越しに見覚えのある傘が見えた。 その傘を見失わないように急いで公園を飛び出す。 「にゃあっ!」 追い付いて、傘を差している後ろ姿に向かって俺は鳴いた。 「きゃ…っ」 驚きながら振り向いたのは、やっぱりなまえ先輩だった。 「急に鳴くからびっくりしちゃった。…大丈夫?」 水たまりを避けながら近付いていくと、先輩は屈んで俺を傘に入れてくれた。 俺の狙い通り、先輩は“雨に濡れた可哀想な猫”を自分の家に連れて帰ってくれた。 そして、俺は風呂場で体を洗われた後、ドライヤーの温風を当てられていた。 「よし、だいたい乾いたかな。」 ドライヤーの風が止んで、俺はつむっていた目を開けた。 「大人しくて良い子だね。」 顎を撫でられた俺は喉をゴロゴロ鳴らし、先輩の膝の上に乗る。 「ふふ…可愛い。」 猫に懐かれて嬉しいのか、微笑んだ先輩は俺の体を撫でてくれる。 (へへっ、実はツイてるじゃん。) 普段ならこんなふうに甘えるなんて出来ない。 頑張ってアピールしてるつもりだけど、先輩にとって俺はただの後輩だから。 (今のところは、だけど。) 今後のことを考えるのは後回しにして、俺はかぎしっぽを揺らして先輩に体を擦り寄せた。 先輩にたっぷり甘えることが出来て(猫としてだけど)上機嫌な俺だったけど、もう夕方になってしまった。 残念だけど、ずっとここにいる訳にもいかない。 俺は先輩の腕に前足をついて立ち上がり、柔らかそうな唇のすぐ横をぺろりと舐めた。 まあ、これくらいは許されるだろう。 何も知らない先輩にとって、今の俺はただの猫でしかないのだから。 俺の行動に驚いてる先輩の膝からピョンと飛び降りる。 「どうしたの?」 座っていたソファーから先輩が立ち上がるのを見て、リビングの窓のほうに歩いていく。 「にゃーにゃー」 さっきみたいに後ろ足で立ち上がって、窓ガラスを前足で叩く。 「外に出たいの?」 すぐに察してくれた先輩が鍵を外して窓を開けてくれる。 雨の上がった空には淡く虹がかかっていた。 「また遊びにきてね、ばいばい。」 「にゃあーん」 かぎしっぽを振って応え、俺は先輩の家を後にした。 (2016.11.23) ← |