授業中で誰もいない屋上、そこで俺は姿を変えた。 給水塔の上から飛び降りて着地したところで扉が開き、そこに立っている人物と目が合った。 「どうして屋上に猫が…?」 そっと扉を閉めたその人物をよく見れば、クラスメイトの一人だった。 俺と同じように授業をサボったのだろう。 確か……みょうじといった筈だが、下の名前までは記憶に無い。 「可愛いね、君。」 自分へと伸びてくる手を避けようとしたが、それより先に頭を撫でられた。 「……?」 瞬間、不思議な感覚がして俺は戸惑った。 俺は人の姿だろうが猫の姿だろうが他人に触れられるのは嫌いだ。 だが、触れてくる彼女の手は何故か心地好く、俺は大人しく撫でられていた。 「撫でさせてくれてありがとうね、白猫くん。」 しばらくすると満足したのか、彼女は俺から手を離して立ち上がり、日当たりの良い場所に歩いていった。 まだ満足していなかった俺は、コンクリートの地面に膝を崩して座った彼女に近付き、太腿に前足を置いて尻尾を揺らした。 「白猫くん、どうしたの?」 「にゃあん」 媚びた声を出せば、彼女は俺を膝の上に抱き上げた。 「懐かれちゃったみたい。」 彼女は嬉しそうに笑って、俺の頭や身体を撫でる。 俺は彼女の膝の上で丸くなりゴロゴロと喉を鳴らした。 ![]() ![]() ![]() 「みょうじ、おはようさん。」 「あ、うん……おはよう、仁王くん。」 翌朝、教室に向かう途中の廊下で後姿を見つけて声をかければ、振り返った彼女は少し戸惑った様子だった。 今まで話した事が無かったから、当然と言えば当然の反応だろう。 「お前さん、昨日は随分と気持ち良さそうに猫と昼寝しとったのぅ?」 「なっ、なんで知ってるの?!」 からかう様に言うと、彼女は驚いた顔で隣に並んだ俺を見た。 「俺も屋上に行ったんよ。それでお前さんを見かけたんじゃ。」 「うぅ……恥ずかしい。」 赤くなって俯いた彼女を見下ろしながら、からかい甲斐がありそうだと思った。 「そう気にしなさんな。じっくり傍で見た訳じゃなか。…それはそうと、アイツと仲良くしてやって欲しいナリ。」 「アイツって、あの白猫くんのこと?」 まだ赤い顔をしている彼女はちらりと俺の方を見た。 「そうじゃ。俺もたまに構ってやっとる奴での。」 「そうなんだ。……もしかして、誰かが野良猫に餌をあげてるらしいって問題になってたのは…?」 「ああ、実はそうなんよ。あいつら可哀相やけぇ。出来れば黙ってて欲しいんじゃが…」 少し困ったように言って、彼女の様子を窺う。 「うん、分かったよ。」 頷いた彼女と並んで教室に向かいながら、俺はこれから楽しくなりそうな予感がして密かに笑った。 (2016.05.22) ← |