ただでさえ大きな目をさらに見開いて私を見下ろすリョーマ。 この特殊な体質を知っていても、いきなり目の前で人間が猫になったら驚くのは無理もないだろう。 私にとっては困ることしかない体質だけれど、リョーマにとってはそうではないらしい。 「なまえ先輩、触ってもいい?」 普段のクールな表情はどこへやら、見上げた先のリョーマは頬が緩んでいるのを隠せていない。 本当に猫好きだなと思いながら「にゃあ」と鳴いて返事をする。 「じゃ、遠慮なく。」 ちゃんと通じたのか、それとも自分に都合良く解釈しただけなのか、リョーマは私に向かって手を伸ばしてきた。 顎の下や首回りを絶妙な指使いで撫でられて、私は気持ち良さに目を細める。 カルピン(今は別の部屋にいるようだ)を飼っているからだろう、リョーマは猫の撫で方を心得ているのだ。 「先輩、ほんと毛並みきれいだね。普段から髪もきれいだし。」 毛並みに沿って背中を撫でながら、いつもなら言わないだろう褒め言葉を口にするリョーマ。 普段もこれくらい素直なら可愛いのにと思いつつ、ゴロゴロと喉を鳴らしてしまう。 「そんなに気持ちいいんだ?」 楽しそうなリョーマに気持ち良いポイントばかり撫でられているうちに私は眠ってしまった。 「あ、起きてたんだ。今日は元に戻るの早かったね。」 部屋に戻ってきたリョーマは「無駄になんなくて良かった」と、私にジュースの缶を差し出した。 「ありがと。」 よく冷えた缶ジュースを受け取ると、リョーマは私の隣に座った。 「もう少し猫のままでもよかったのに。」 そう言ったリョーマは、いつもカルピンと遊ぶ時に使っている猫じゃらしで私の頬をくすぐってきた。 「ちょ、やめてよ…っ」 「はいはい、つまんないの。」 リョーマは猫じゃらしを置くと、缶のプルタブを開けて炭酸ジュースに口を付けた。 「リョーマって…私より猫が好きなの?」 「は? 何言ってんの?」 「だって、猫の私といる時のほうが楽しそうだから。」 「別に、そんなことないけど。……拗ねてるわけ?」 小さく口を尖らせていた私は図星を指されて言葉に詰まった。 「バカだね、なまえ先輩。」 言うに事欠いてバカ扱いするなんて、と生意気な年下の恋人を見る。 「ほんとバカ。」 私を見ていたリョーマの唇が私の唇に一瞬だけ重なった。 「分かった? 猫が好きなだけなら、こんなことするわけないじゃん。そもそも一緒にいないし。」 「…うん。……ね、もう一回。」 「じゃあ、目閉じて。」 素直に目を閉じると、唇じゃなく鼻の頭に軽くキスされた。 「〜〜っ、リョーマ。」 不満に思いながら目を開けると、リョーマはふっと意地悪そうに笑った。 「まだまだだね。」 (2018.01.08) ← |