「ほんと可愛い茶トラだよね、謙也くんは。」 ベッドの上で仰向けに寝転んだ俺の腹を撫でながら、なまえはニコニコと笑っている。 「お腹の毛って、すごいふかふか。」 この姿でなまえに撫でられるのは気持ち良いし、笑った顔を見るのは好きだ。 ……が、複雑な気持ちもある。 起きた時には猫の姿になっていて、どうにかスマホを操作してなまえに電話をかけたものの「にゃあ」としか声を出せなかった。 デートの予定がダメになると、俺は残念な気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいだったというのに…。 俺の鳴き声を聞いたなまえは『今すぐ家に行くから!』と、それは嬉しそうだった。 (なまえは俺やなくて、単に猫が好きなだけやったりして。) そんな事はないと言い切りたいが、ひたすら俺の身体を撫で回して頬を緩ませているなまえを見ていると自信がなくなってくる。 「ありがとうね、謙也くん。」 ようやく満足したらしいなまえは最後に耳の後ろを指先でくすぐって、俺から手を離した。 「いつもごめんね。うちじゃ猫が飼えないからって、つい…」 顔を曇らせるなまえを見ると、元に戻ったら文句を言ってやろうという気は消え失せてしまう。 我ながら甘過ぎるとは思うのだが。 「私ばっかり楽しむのは悪いし、今度は一緒に遊ぼっか。」 なまえはベッドに足元に置いてあったバッグを取り、その中を探る。 「猫と遊ぶっていったら、これだよね!」 声を弾ませたなまえがバッグから取り出したのは、派手なピンク色の猫じゃらしだった。 なまえは楽しそうに猫じゃらしのおもちゃを俺の目の前で左右に振る。 俺は楽しい訳じゃないが、どうしても猫じゃらしから目を離せない。 身体が勝手にムズムズ…いや、ウズウズしてくる。 「ほらほら、こっちだよー」 「にゃっ!」 気付いた時には、俺は猫じゃらしに飛び付いていた。 その後も本能(?)には抗えず、俺はなまえが動かす猫じゃらしを追いかけ続け、ヘトヘトになって床の上に伸びた。 「ごめん、謙也くん…っ 本当にごめんなさい…!」 まさか俺が限界まで走り回ってしまうとは思っていなかったのだろう。 なまえは荒い息をしている俺を腕に抱き上げてオロオロしている。 そんなに心配しなくても大丈夫だと言ってやりたいが、この姿では無理だ。 「謙也くん…?」 俺はなまえの腕の中で身体を起こし、細い肩に前足を置いて、なまえの頬をざらついた舌で軽く舐めた。 「…ありがとう。」 ちゃんと伝わったようで、控えめに笑ったなまえに頭を撫でられ、俺はゴロゴロと喉を鳴らした。 「ふふ……謙也くん、大好き。」 「にゃっ?!」 鼻先にキスされて猫の目をパチクリさせる俺を見て、なまえは楽しそうに笑った。 (2017.07.30) ← |