三周年×100万打感謝企画



※数年後


同じ朝を迎えられて、この上ない幸せを感じる一方で、消えない罪悪感が胸の奥を疼かせる。

「結局、泣かせたな。」

自分の腕の中で眠っているなまえの、微かに涙の跡が残る頬を指の背でなぞる。

出来得る限り優しくしたつもりだが、それでも痛みを与える事には変わりなかった。

しかし、なまえは涙に濡れる瞳を細めて「幸せ」と微笑んだ。

そんななまえがこの世で最も貴い存在に思えた。

「俺のなまえ……」

酷く無防備な表情を見つめながら、頬から顎へと顔の輪郭を指先でなぞる。

あの頃よりも大人びて一段と綺麗になったなまえだが、まだ寝顔にはあどけなさが残っている。

「ずっと俺だけに守らせてくれ。」

未だ眠りの中にいるなまえの頬に唇を寄せ、涙の跡を辿るように口付ける。

眦に、そして閉じられた目蓋に唇を落とすと、微かに睫が揺れた。

穏やかな寝息が途切れ、なまえが小さく身動ぎをする。

「…ん、……けい、ご…?」

カーテン越しの陽射しが眩しかったようで、なまえは開けた目を細める。

「大丈夫か?」

「…昨夜から君はそればかりだね。」

頬に触れていた俺の手に、なまえは華奢なリングの光る手を重ねて苦笑交じりに言う。

「仕方ねぇだろ。」

折れそうに細い身体を抱き締め、その薄い肩に額を押し付ける。

きっとなまえは知らないだろう。

全てを手に入れたいと強く思う一方で、俺が恐怖していたことに。

ずっと大事にしてきたものを自らの手で壊してしまうのではないかと。

「私は大丈夫だよ。」

温かな腕が俺を抱き締め返してきて、手の平が優しく背中を撫でる。

触れ合った肌から伝わってくる温もりが、なまえが確かにここに居るという事を俺に教えてくれる。

「俺は幸せだな。」

「私も、すごく幸せ。君に愛してもらえて。」

頬を薔薇色に染めたなまえが柔らかく微笑む。

それだけで、言葉では言い尽くせない感情が胸を満たす。

こんな至極の幸せを俺に与えてくれるのは、なまえだけだ。

「愛している、なまえ。」

剥き出しの肩に口付けて、そのまま白い首筋に唇を押し付ける。

仄かに甘い香りがして、それに引き寄せられるように首筋や耳の付け根に何度も唇を押し当てる。

そんな俺の戯れに、なまえが小さく笑い声を零す。

「景吾、擽ったい。」

「それなら、こっちだな。」

首を竦めるなまえの頬を撫でて、笑みを刻んでいる唇を自分の唇で塞ぐ。

啄ばむような口付けを繰り返していると、背中に回っているなまえの腕から力が抜けてきた。

「眠いなら寝ていいんだぜ。」

「でも、景吾…」

「ゆっくり過ごすのも悪くねぇだろ。」

「…うん。そうだね。」

安心したような溜息を吐いて、なまえは俺の胸に頬を擦り寄せてきた。

俺はベッドに散らばったなまえの髪の一束を掬い上げ、その絹糸のような感触を楽しんでから唇を寄せた。

艶やかな長い髪を梳くように撫で、指先に絡めて弄ぶ。

「景吾…私も愛してる。」

何度聞いても俺の胸を震わせるなまえの言葉。

きつく抱き竦めたくなる衝動を抑え、華奢な身体を包むように抱き締める。

互いの鼓動が一つに重なり、体温が溶け合う。

「ありがとうな、なまえ。」

俺の全てを受け入れてくれて。

俺を、愛してくれて――



惜しみなく与える愛

(2014.04.05)

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