「ねえ、今日って何の日か知ってる?」
学校帰りにキヨの家に寄って、部屋で淹れてもらったコーヒーを飲んでいたら、急にそんなことを聞かれた。
マグカップから口を離して隣を見れば、すごく楽しそうな顔をしたキヨが私を見ていた。
このパターンには覚えがある。
前に『今日はキスの日なんだよ』って言われて、嫌ってほどキスされたのを思い出す。
「…知らない。」
素っ気なく言って視線を逸らせる。
「ちょ、もっとよく考えてよ! っていうか思い出そうよ! 俺たちにとってすごく大事な日なんだから!」
「そんなこと急に言われても…」
なぜか必死な様子のキヨを見て、そんなに重要なことがあっただろうかと考えてみるけど、何も思い当たらない。
「えっと……ごめん、分からない。」
「なまえの薄情者ー 今日はさ、3ヶ月記念なのに。」
わざとらしく口を尖らせたキヨに言われて壁のカレンダーを見れば、今日の日付には花丸がついていた。
「……3ヶ月って、付き合い始めてからの?」
「そうだよ。だから……ほら、プレゼント。」
サイドボードの引き出しから何か取り出したキヨが、それを私に押し付けてきた。
戸惑いながらも両手で受け取り、その小さな袋を開けてみると、猫のストラップが出てきた。
シルバーベースの可愛らしい猫はラインストーンで飾られてキラキラしていてすごく綺麗だ。
「気に入った? 可愛いし、なまえに似てるでしょ?」
本気で怒っても拗ねてもいなかったキヨは、ニコニコしながら私の顔を覗き込む。
それに安心した私はキヨの顔を見ながら首を傾げた。
可愛いのはそうだけど、手の中の猫は特徴のある顔をしている訳でもなく、似ているとも似ていないとも判断はできない。
「残念だけど猫はそれしかなくてさ、俺のは犬にしたんだ。」
そう言ったキヨが私に見せたのは、ゴールドがベースのやっぱりラインストーンでキラキラしてるストラップだった。
どちらかと言えばキヨは犬っぽい感じだと思うから、イメージに合っているんじゃないだろうか。
「私、そっちのがいい。」
「あれ、猫は好きじゃなかった?」
「そうじゃないけど……猫は私なんでしょ? だから、キヨが持っててよ。」
言い終わってから、じわじわと頬が熱くなってくる。
こういうことを言うのはキヨなら平気なんだろうけど、私は恥ずかしいから苦手だ。
「うんうん、大事にするよ! じゃあ、犬は俺だと思って大事にしてね。全然似てないけど。」
すごく喜んでいる様子のキヨから垂れ耳の犬を受け取って、代わりに首にリボンをつけた猫を渡す。
「あのね……言い訳になるけど、付き合い始めた日は忘れてなかったよ。」
さっそく自分の学生鞄にストラップをつけているキヨの制服の裾を掴んで、俯きながら言う。
「ただ、それで何かするって考えがなかっただけで……ごめんなさい。」
「そんなのいいよ。ぜーんぜん気にしてないし。それに、3ヶ月ってのは口実で、ただなまえとお揃いのものが欲しいな〜って思ってただけなんだ。」
ゆっくり顔を上げると、キヨはいつもと同じように笑っていた。
私は上手く言葉に出来そうになかったから、ぎゅっとキヨに抱き着いた。
普段の私ならしない行動に、キヨは驚いたみたいで少し固まったけど、すぐに抱き締め返してくれた。
「これからもよろしくね、なまえ。」
「うん、私も。」
互いの愛情
(2014.11.11)
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