学校帰り、蔵ノ介と私は雑貨屋で食器のコーナーを見ていた。
私がお気に入りのティーカップを不注意で割ってしまって落ち込んでいたら、蔵ノ介が新しく一緒にペアのティーセットを買おうと言ってくれたのだ。
そういう訳で、私は一番お気に入りのものを探そうとじっくり商品を見ていた。
そんな私の隣にいる蔵ノ介は少し落ち着かなそうだ。
お店の内装は落ち着いた雰囲気だけど、場所的に女性客が多いからだろう。
「なぁ、これとかエエんとちゃう?」
繋いでいないほうの手で蔵ノ介が指を差したのは、白地で縁と持ち手にゴールドのラインが入っているシンプルなデザインのティーセットだ。
「これ、私もいいなって思ってたんだ。」
他にも気になるものがいくつかあったけれど、これが一番好きな感じだなと私もさっき見ていた。
「ほな、これにしよか。」
「うん、決まりだね。」
まだ全部の商品は見ていなかったけれど、私はすぐに笑顔で頷いた。
二人で使う物だから、二人とも気に入った物がいい。
「お待たせ、蔵ノ介。はい、どうぞ。」
「おん、ありがとうな。」
リビングのソファーに座っている蔵ノ介の前に淹れたての紅茶を置く。
甘い香りをさせる紅茶が注がれているのは、さっき買ったばかりのティーカップだ。
さっそく箱から出したカップとソーサーを洗う私を見て、蔵ノ介は少し笑っていたけれど、早く一緒に使いたかったから。
「今日はアップルティーやないんやな。」
「うん、これはピーチティーだよ。」
いつもと違う香りに気付いた蔵ノ介に答えながら、頂き物のクッキーが乗った皿をテーブルに置く。
「試しに少し買ってみたらおいしかったから、蔵ノ介と一緒に飲もうと思って取っておいたの。」
自分のティーカップを持って、蔵ノ介と同じソファーに座る。
「…そうか。」
なんとなく嬉しそうな顔をした蔵ノ介がティーカップを傾ける横で、私も紅茶に口をつける。
甘くて優しい香りと味に、ほっと息をつく。
「確かに美味いな、これ。甘いけど後味すっきりしとる。」
「でしょ。甘さも柔らかい感じだし。飲むと落ち着くんだよね。」
隣の蔵ノ介を見上げると、軽い音を立てて唇にキスされた。
不意打ちにはまだ慣れなくて、少し固まってしまう。
「俺の一番はなまえやけどな。」
「っ、…急に何言ってるの。意味分からないんだけど。」
照れて可愛くない言い方をしてしまう私なのに、蔵ノ介は甘い笑みを浮かべる。
「俺が一番落ち着く…癒されるんはなまえとおる時ってことや。」
カップをソーサーに戻した蔵ノ介がもう一度私にキスをする。
「……私も、だよ。」
ドキドキし過ぎて心臓に悪い時もあるけれど。
自分も紅茶の残っているカップをソーサーに置いて、蔵ノ介のほうに身体を寄せる。
柔らかく笑んだ蔵ノ介は私の肩を抱いて、優しく撫でた。
私が甘えるように蔵ノ介の肩に頭を預けていると、包帯の巻かれた手が髪に触れた。
「好きやで、なまえ。」
蔵ノ介は私の髪を一束掬い上げ、唇を寄せる。
「私も好きだよ、蔵ノ介。…大好き。」
私は小さな音を立てて蔵ノ介の頬に弧を描く自分の唇を押し当てた。
愛を包む
(2014.12.31)
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