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ヒロイン視点
「あの、謙也先輩…怒ってないんですか?」
おずおずと聞くと、先輩からは笑顔が返ってきた。
「全然やで。」
先輩のゴツゴツした手が頭に乗せられて、ぐしゃぐしゃと髪をなで回される。
「…良かった。もう謙也先輩と話せなくなっちゃうかと思って、私…」
ほっとしたら、また涙が出てきてしまって、あわててそれをぬぐう。
「なまえは気にしぃやな。っちゅーか、俺、そんな根に持ちそうに見えるん?」
「いいえっ、そんなことないです! ただ、私が…っ」
「ん…?」
「えっと……なんでもないです。」
気にし過ぎてしまうのは先輩のことが好きだからだけど、そんなことを言えるはずもない。
でも、今はまだそれでいい。
また先輩と笑い合えるようなったことが何よりも嬉しいから。
「…っ、そうだ! 白石先輩のことは本当に違いますからね。全く、これっぽっちも、何とも思ってないです。」
「お、おん、分かった。(ここまで言われてまう白石も可哀相やな…)」
「ほんま人騒がせやな。この世の終わりみたいな顔しとったと思うたら、能天気にヘラヘラしよって。」
隣を歩くともだちちゃんはあきれたように言うけど、横顔はちょっとだけ嬉しそうにも見えた。
「だから、ごめんって。…でも、ほんとに落ち込んでたんだもん。」
「まあ、ええけど。あんたが元気ないとこっちも調子出ぇへんし。」
「ともだちちゃん……ありがとう、心配してくれて。」
笑ってお礼を言えば、ともだちちゃんは私から目をそらした。
「別に…。」
「ともだちちゃん、好きー」
「はいはい。わかったから、引っ付かんといて。暑苦しいわ。」
ぎゅっと手を繋いだら、嫌そうな顔をされたけど、ともだちちゃんは私の手を振り離したりはしなかった。
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「失礼しまーす。先生…」
体育でバレーをしている時に軽く突き指をしてしまい、授業が終わってから保健室に行くと、そこにいたのは先生じゃなくて白石先輩だった。
「自分、この間の…っと、それより、怪我か? それとも具合悪いん?」
「ちょっと突き指をしちゃったんです。たいしたことはないんですけど。」
「ほな、早く冷やさんと。氷用意するから、そこらへんに座っといてや。」
「はい、わかりました。」
長いすに座っていると、白石先輩は氷を入れたビニール袋とタオルを持ってきてくれた。
「冷たいやろうけど、これで突き指したこと冷やしてな。」
「はい、ありがとうございます。」
氷水の中に突き指をした左のひとさし指を入れて、タオルに乗せたビニール袋を右手で持つ。
「あの、白石先輩…ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「謙也のことか?」
「え! なんでわかったんですか?!」
すごくびっくりしたら、白石先輩はこらえきれなかったみたいに笑われた。
「何でって、自分めっちゃ分かり易いやん。そんで、聞きたい事って何やの?」
「ええっと……どんな子が好きか、とか。」
趣味とか好きな食べ物とかは聞いたけど、肝心なことは恥ずかしくて聞けなかったのだ。
「初っ端から直球ど真ん中やな。いっそ清々しいわ。」
「すごく重要なことですから。…それで、謙也先輩の好きなタイプってどんな感じなんですか?」
「せやなぁ……キミ、そないに外れてないと思うで?(無邪気っちゅーか、単純って気ぃするけど。)」
「ほっ、本当ですか?!」
「おん、ホンマやで。ただ…」
「ありがとうございます、白石先輩! 私、頑張ります!」
思わず長イスから立ち上がると、白石先輩は苦笑いを浮かべた。
「それはエエけど、まだ手当て終わってへんから。ちょっとは落ち着きや。」
「…すみません、つい。」
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