![](//static.nanos.jp/upload/k/kanzennaru/mtr/0/0/20150913132145.gif)
謙也視点
「あっま…」
飲んだ途端、口ん中に広がった甘ったるい味に、思わず顔をしかめる。
ちゃんと苺の果肉が入っとるようなヤツならともかく、こう甘いだけのは無理やと思いながらストローを吸う。
「ずいぶん可愛らしいもん飲んどるな。」
学食から戻ってきた白石が隣の席に座ったのを横目に見て、またすぐにぼんやりと視線を宙に投げる。
「なまえが好きなんや、これ。毎日飲んどる言うてたわ。」
「なまえ? ……ああ、この間公園で一緒におった子か。で、なんで今朝からそないテンション低いん?」
「あー、それがな……昨日、なまえんこと怒らせてもうて。悪気はなかってんけど。」
言いながら、溜息を吐き出す。
「一体何言うたん?」
「それは……その、まあ、ちょっとな。」
さすがに白石にあの内容を言うんはマズイ思うて、曖昧に言葉を濁す。
「別に言いたなかったらエエけど。それより、そない気にするんやったら、さっさと謝ったほうがエエんとちゃう?」
「おん、それは分かっとるんやけど…」
「なんや歯切れ悪いなぁ。らしくないやんか。」
「俺が怒らせたんやから謝るのは当然やけど、なまえのほうが顔合わせづらいんやないかと思うて。それやったら、ちょっと時間おいたほうがエエんかなって思うたりして。」
「へぇ…ずいぶん気ぃ使うんやな。」
白石に目線だけ移すと、なんや分からんけど意味深そうな笑みを浮かべとった。
「そら、なまえは女の子なんやし、男に対してよりは気ぃ使うやろ。」
「それだけなん? あの子やから、なんちゃうん?」
「はぁ?」
「謙也、あの子と話しとる時めっちゃ楽しそうやんな。」
「そら楽しいで。」
急に話が逸れて怪訝に思いながらも、白石に答える。
「いつもニコニコして話聞いてくれるし、リアクションはエエし、話してて楽しいに決まっとるやろ。」
「…で?」
「で、って何がやねん。っちゅーか、さっきからそのニヤニヤした顔止めぇや。キショイで。」
「失礼なやっちゃなぁ。それより、鈍い…っちゅーか、鈍過ぎやし。」
大袈裟な溜息をついて肩をすくめよる白石に、若干イラっとする。
「何でそないな事言われなアカンのや。訳分からんわ。」
「まあ、そう怒りなや。とにかく、謝るんなら早いほうがエエと思うで。」
「分かっとる。」
俺はムスッとしながら頬杖をついて、ぬるくなり始めとるイチゴミルクをすすった。
帰りのホームルームが終わって教室を出たら、廊下でなまえが待っとった。
しょんぼりしとる子犬みたいななまえの顔を見たら、ホンマ悪い事をしてもうたと胸が痛くなった。
「あの、謙也先輩…」
「ちょっと場所変えよか。」
こくんと頷いたなまえのちっこい手を掴んで、あんま利用する生徒がおらん階段の踊り場まで移動した。
「謙也先輩、ごめんなさい!」
手を離した途端、なまえはものすごい勢いで頭を下げてきた。
「本当にごめんなさい! 私、私…っ」
「ちょ、落ち着きや。…なまえっ!」
頭を下げたまま何度も謝りよるなまえの両肩を掴む。
「け、謙也…先輩…」
「え、ちょ…泣かんといてや…っ」
顔を上げたなまえは目にいっぱい涙を溜めとって、俺は掴んだ肩から離した手を無意味に動かしてまう。
「俺が悪かった! すまん!」
まずは謝るしかないやろうと思うて、今度は俺が勢いよく頭を下げた。
「からかったり茶化したりしたつもりやなかったんやけど、嫌な思いさせてしもうて悪かった。」
「い、いえ……私のほうこそ…八つ当たりみたなことしてしまって、ごめんなさい。」
「いや、俺が悪かったんや。」
「そんなことないです、私が…っ」
「……なんや、最初もこんな感じやったよな。」
「そう、ですね。」
お互いに顔を見合わせて、苦笑いをこぼす。
なまえの目にはまだ涙が溜まっとるけど、笑うてくれたことに安心した。
←