あまいオトメゴコロ | ナノ


謙也視点


「あっま…」

飲んだ途端、口ん中に広がった甘ったるい味に、思わず顔をしかめる。

ちゃんと苺の果肉が入っとるようなヤツならともかく、こう甘いだけのは無理やと思いながらストローを吸う。

「ずいぶん可愛らしいもん飲んどるな。」

学食から戻ってきた白石が隣の席に座ったのを横目に見て、またすぐにぼんやりと視線を宙に投げる。

「なまえが好きなんや、これ。毎日飲んどる言うてたわ。」

「なまえ? ……ああ、この間公園で一緒におった子か。で、なんで今朝からそないテンション低いん?」

「あー、それがな……昨日、なまえんこと怒らせてもうて。悪気はなかってんけど。」

言いながら、溜息を吐き出す。

「一体何言うたん?」

「それは……その、まあ、ちょっとな。」

さすがに白石にあの内容を言うんはマズイ思うて、曖昧に言葉を濁す。

「別に言いたなかったらエエけど。それより、そない気にするんやったら、さっさと謝ったほうがエエんとちゃう?」

「おん、それは分かっとるんやけど…」

「なんや歯切れ悪いなぁ。らしくないやんか。」

「俺が怒らせたんやから謝るのは当然やけど、なまえのほうが顔合わせづらいんやないかと思うて。それやったら、ちょっと時間おいたほうがエエんかなって思うたりして。」

「へぇ…ずいぶん気ぃ使うんやな。」

白石に目線だけ移すと、なんや分からんけど意味深そうな笑みを浮かべとった。

「そら、なまえは女の子なんやし、男に対してよりは気ぃ使うやろ。」

「それだけなん? あの子やから、なんちゃうん?」

「はぁ?」

「謙也、あの子と話しとる時めっちゃ楽しそうやんな。」

「そら楽しいで。」

急に話が逸れて怪訝に思いながらも、白石に答える。

「いつもニコニコして話聞いてくれるし、リアクションはエエし、話してて楽しいに決まっとるやろ。」

「…で?」

「で、って何がやねん。っちゅーか、さっきからそのニヤニヤした顔止めぇや。キショイで。」

「失礼なやっちゃなぁ。それより、鈍い…っちゅーか、鈍過ぎやし。」

大袈裟な溜息をついて肩をすくめよる白石に、若干イラっとする。

「何でそないな事言われなアカンのや。訳分からんわ。」

「まあ、そう怒りなや。とにかく、謝るんなら早いほうがエエと思うで。」

「分かっとる。」

俺はムスッとしながら頬杖をついて、ぬるくなり始めとるイチゴミルクをすすった。



帰りのホームルームが終わって教室を出たら、廊下でなまえが待っとった。

しょんぼりしとる子犬みたいななまえの顔を見たら、ホンマ悪い事をしてもうたと胸が痛くなった。

「あの、謙也先輩…」

「ちょっと場所変えよか。」

こくんと頷いたなまえのちっこい手を掴んで、あんま利用する生徒がおらん階段の踊り場まで移動した。

「謙也先輩、ごめんなさい!」

手を離した途端、なまえはものすごい勢いで頭を下げてきた。

「本当にごめんなさい! 私、私…っ」

「ちょ、落ち着きや。…なまえっ!」

頭を下げたまま何度も謝りよるなまえの両肩を掴む。

「け、謙也…先輩…」

「え、ちょ…泣かんといてや…っ」

顔を上げたなまえは目にいっぱい涙を溜めとって、俺は掴んだ肩から離した手を無意味に動かしてまう。

「俺が悪かった! すまん!」

まずは謝るしかないやろうと思うて、今度は俺が勢いよく頭を下げた。

「からかったり茶化したりしたつもりやなかったんやけど、嫌な思いさせてしもうて悪かった。」

「い、いえ……私のほうこそ…八つ当たりみたなことしてしまって、ごめんなさい。」

「いや、俺が悪かったんや。」

「そんなことないです、私が…っ」

「……なんや、最初もこんな感じやったよな。」

「そう、ですね。」

お互いに顔を見合わせて、苦笑いをこぼす。

なまえの目にはまだ涙が溜まっとるけど、笑うてくれたことに安心した。



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