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ヒロイン視点
「謙也先輩…!」
「おわっ! びびったー」
私がいきなり声をかけたから、先輩はびくっと肩を跳ねさせてから振り向いた。
「すっ、すみませ…っ」
「いや、かまへん…っちゅーか、息切れしとるけど大丈夫か?」
「は、はいっ…先輩がっ、いた、から……追いかけて、きたっ、だけ、なんで…っ」
なんとか息を整えながら答える。
「そない急いで、なんか用でもあったん?」
「えっと……なんにも、ないんですけど…先輩の姿見つけて嬉しかったから、その…」
先輩はきょとんとした顔になった後、ニコニコと嬉しそうな感じで笑った。
「それで追いかけてきたん? 可愛えやっちゃな、なまえは。」
わしゃわしゃと髪をなで回されて、嬉しいけど恥ずかしくて、頬がじわじわと熱くなってくる。
「あれやな、一生懸命しっぽ振って懐いてきよる犬っころみたいや!」
「…ありがとう、ございます。」
なんとか笑って返すけど、私としてはすごく複雑な気持ちだ。
先輩に悪気がないのはわかるけれど、私は女の子だと思われていないらしい。
「ところで、先輩の家ってこの近くなんですか?」
落ち込んでもいても仕方ないと、先輩に話しかける。
「いや、そうでもないな。寄り道しとるから帰り道からは外れててん。この近くにうまい和菓子屋があってな、今日はそこに行くとこなんや。」
「そのお店って、どこにあるんですか?」
おいしい和菓子、というのはすごく気になる。
先輩のお気に入りだというなら、なおさらだ。
「この通りから脇道に入ったあんま目立たんトコにあるんやけど…時間あるんやったら、一緒に行くか?」
「ぜひ行きます!」
「めっちゃうまいから期待してエエで。」
ぱあっと目を輝かせた私を見て笑った先輩はぽんぽんと私の頭をなでる。
なんだか子供扱いされている感じだけど、頭に乗せられている手は嬉しいから私も笑った。
和菓子屋を出た先輩と私は近くの公園に寄った。
空いていたベンチに座り、買ったばかりの和菓子が入った袋を開ける。
私が買ったのは自分用のいちご大福と、家族用の黒糖まんじゅうだ。
「いただきまーす。……すごい、おいしいっ!」
さっそくいちご大福にかぶりついた私は、思わず声を上げた。
柔らかなぎゅうひと上品な甘さの白あんそして大粒のいちごの酸味のバランスが絶妙だ。
「せやろ? ここのはどれもうまいんやで。」
横から私の顔を覗き込んできた先輩はつやつやとした飴色のあんがたっぷりかかったみたらし団子を手に持っていた。
「なんなら、みたらしも食べるか?」
「いいんですかっ?!」
「うまそうなもん食べとるな、謙也。」
急に割り込んできた声に、私と先輩は声の主を見た。
「なんや、白石かいな。ちゅーか、なんでこないなトコにおるん? 帰り道ちゃうやろ。」
「自分やってそうやんか。俺は本屋に寄ってきたとこなんやけど……」
謙也先輩と話をしているのは、うちの学校では有名な白石先輩だ。
こんなに近くで見るのは初めてだけど、学校の女子の多くが騒いでいるだけあって、本当にイケメンだ。
ここまでキレイな顔をしている人はなかなかいないんじゃないかと思う。
(私には謙也先輩のほうが何倍もカッコよく見えるけど。)
なんて、白石先輩にちょっと失礼なことを考えながら、もぐもぐといちご大福を食べる。
「キミな、そないガン見されると気まずいんやけど。」
なんだか困ったような顔をした白石先輩に言われて、私は自分がじっと見過ぎていたことに気づいた。
「すみません。もう見ませんので、気にせずにお話を続けてください。」
ぺこりと頭を下げ、私はいちご大福を味わうことに集中する。
なめらかなぎゅうひ、白あんのほんのりした甘さ、いちごのみずみずしさ…本当においしい。
「なんちゅーか、変わった子やな。」
「おん、おもろい奴やろ。」
あきれたような白石先輩と楽しそうな謙也先輩の声は、いちご大福に夢中な私の耳には届いていなかった。
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