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ヒロイン視点
ともだちちゃんと中庭でお昼ご飯を食べて校内に戻る途中だった。
あせったような声がした後、目の前に黄色いボールが落ちてきたのは。
何度かバウンドしたボールはコロコロと転がっていく。
「すまん、大丈夫やったか?!」
校舎を見上げれば、先輩が三階の窓から顔を出していた。
「大丈夫ですよー!」
近くに落ちたテニスボールを拾って、ブンブンと手を振って答える。
「先輩、ボール投げますから、ちゃんと受け取ってくださいねー!」
先輩がいる場所に目がけて、私は思いっきりボールを投げた。
「アホッ、どこに投げとんねんっ!?」
しまった!と思った時には遅くて、ボールは先輩がいる窓のひとつ隣の開いていた窓に飛び込んでいき、ガシャーンと何かが割れる音が聞こえた。
「や、やっちゃった…」
ポン、とともだちちゃんの手が固まっている私の肩に置かれる。
「ご愁傷さま。」
「私のせいでごめんさない。」
「いや、元はと言うたら廊下でキャッチボールしとった俺が悪いんやし、気にせんでエエって。」
「でも…っ」
先輩は優しいから怒らないけど、迷惑をかけてしまって、私はすごく落ち込んでいた。
不幸中の幸いというやつで、廊下に飾ってある花瓶が割れただけでケガ人は出なかった。
でも、学校の備品を壊してしまったから、先生にさんざん怒られた先輩と私は放課後に生徒指導室で反省文を書かせられていた。
ちなみに、キャッチボール相手の人は上手く逃げおおせたらしい。
「ホンマに気にしなや。それより、ちゃっちゃと書かな帰られへんで。」
「…はい。」
しばらくはカリカリと原稿用紙にシャープペンを走らせる音がしていたのだけど…
「なあ、みょうじ、終わったか?」
「いえ、ぜんぜんまだです。」
隣に座っている先輩と顔を見合わせて、はあっと大きなため息をつく。
「5枚は多いですよね。」
「全くやで。安もんの花瓶割ったくらいで厳し過ぎるっちゅーねん。…まあ、親呼ばれなかっただけマシやけど。」
グタッーとイスの背もたれに身体を預けた先輩の、机の上にある消しゴムに目が留まる。
「先輩、可愛い消しゴム使ってるんですね。」
それは真っ赤ないちごの形をしていて、可愛いけど少し使いづらそうな感じだ。
「エエやろ? いろんな形の消しゴム集めててん。…せや、まだ他にもあるで。」
背もたれに寄りかかっていた先輩は身体を起こすと、足元に置いてあった鞄の中を探り始めた。
「よかったら、これやるわ。自分、苺好きなんやろ?」
先輩が私の机の上に置いたのはガチャガチャのカプセルで、中をよく見てみると、小さないちごのショートケーキが入っていた。
「わぁ、すごく可愛いですね。本当にもらってもいいんですか?」
「おん。それ、かぶってもうたヤツやから。余りもんみたいで悪いけどな。」
ちょっとすまなそうに言う先輩だけど、私はすごく嬉しくて笑顔になる。
「いえ、ありがとうございます、忍足先輩。」
使うのはもったないな、とプラスチックのカプセルを両手で包むように持つ。
「なあ、みょうじ。俺、苗字で呼ばれんのはどうにも落ち着かへんから、名前で呼んだってや。」
「はい。……あのっ、私のことも名前で呼んでください…っ」
「確か……なまえ、やったよな?」
どさくさにまぎれて言ってみたら、あっさりと通ってしまった。
(というか、今! 私の名前…!)
心の中で、小さな私がじったんばったん悶え転げる。
「そっ、そうです……謙也先輩。」
(ほんとに呼んじゃった…!)
思いきって自分も先輩の名前を呼んでみたけど、恥ずかしくて心臓がバクバクいっている。
でも、嬉しいドキドキだ。
「随分と楽しそうやな、お前ら。」
先輩と私が同時に前を見ると、いつの間にか現れた生活指導の先生がすごくいい笑顔で立っていた。
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