あまいオトメゴコロ | ナノ


ヒロイン視点


「ってことがあったの。」

お昼休み、私は友達のともだちちゃんと一緒にお弁当を食べながら昨日あったことを話していた。

「浮かれとるトコ悪いんやけどな、なまえ。」

「うん、なに?」

私は頬をゆるませながら、机をくっつけて向かい合わせに座っているともだちちゃんを見た。

「それだけじゃあ、あんま意味ないと思うで。」

「えー、なんで? ちょっとだけど話せたんだよ。すごい進展だよ、これは。いっつも遠くから見てるだけだったんだから。」

言いながら身を乗り出したら、ともだちちゃんに思いきりため息をつかれてしまった。

「せっかく話したんやったら、名前くらい言わんでどうするん? 自分のこと知ってもらわな進展も何もないやんか。」

「そ、そっか。じゃあ、次に会ったらちゃんと自己紹介する。」

もっともな指摘にうなずいて、イスに座り直す。

そして、握っていたフォークに刺さっているタコウィンナーを口に入れた。

「また会えたらええけどな。うちの学校、生徒数多いから確率は低そうやし。」

「そんないじわる言わなくても…。」

「意地悪ちゃうし。そもそも、あんたはな…」

シュンとうなだれる私に、ともだちちゃんが追い討ちをかけてくる。



お弁当を食べ終わった私はジュースを買ってくると言って、ともだちちゃんから逃げた。

「はぁ…」

廊下をとぼとぼ歩きながら、大きくため息をこぼす。

確かに、私は抜けているところが多いけど、あんなにズバズバ言わなくてもいいと思う。

(でも……いちご柄のばんそうこうはまずかったよね。)

よくよく思い出してみると、先輩は少し苦笑いになっていたような気がする。

私は落ち込みながら、手に持っていたコインケースのふたを開けた。

「あ…っ」

「おっと、すまん。」

自販機にお金を入れようとしたら、トンッと誰かと手がぶつかってしまった。

「私こそ、ごめんなさい…っ」

謝りながら相手の人を見ると、それはなんと忍足先輩だった。

「自分、昨日の…」

「みょうじなまえです! 二年生です!」

むだに勢いよく名乗ってしまい、先輩がポカンと口を開けて私を見ている。

「そ、その……えっと…」

(どうしよう?! 好印象どうこうの前に、絶対に変な子だって思われたよ!)

あわあわと両手を動かして困っていると、先輩はおかしそうに笑った。

「めちゃくちゃ元気良えな、自分。」

「はっ、はい、元気なのだけが取り柄です!」

「ははっ ホンマおもろいやっちゃな。せや、俺も名前…」

「知ってます。忍足謙也、先輩ですよね。」

「おん、そうやけど…」

「先輩のお昼の放送がおもしろくて、私いつも楽しみにしているんです。」

「嬉しいこと言うてくれるやんか。」

「っ、…本当のことですから。」

ニコニコと眩しいくらいの笑顔を向けられて、胸がドキドキと高鳴る。

「よっしゃ、ここは俺が奢ったる。絆創膏の礼や。飲みもん買いに来たんやろ? 何がええ?」

「そんな、いいですよっ」

自販機にお金を入れた先輩に向かって、ブンブンと首を横に振る。

「はよ決めんとブラックコーヒーにするで。」

「ええっ、それは嫌です! イチゴミルクがいいです!」

「りょーかい。俺は……これやな。」

ガコンガコンと音がして、屈んだ先輩が受け取り口からジュースを取り出す。

「ありがとうございます、忍足先輩。」

先輩の手から紙パックのイチゴミルクを両手で受け取ってお礼を言う。

「ほな、またな、みょうじ。」

「はいっ」

オレンジジュースの缶を持った先輩は私に片手を振って、階段のほうに歩いていった。

(今度はちゃんと名前覚えてもらえたみたよね。それに「またな」って言われた。)

私はしまりのない顔をしながら、細いストローを紙パックに刺す。

ストローを吸うと、イチゴの香りと一緒に甘い味が口の中に広がった。



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