あまいオトメゴコロ | ナノ


ヒロイン視点


「どわっ!」

「わあっ!?」

校舎の角を曲がったところで誰かとぶつかってしまい、私は後ろに転んでしりもちをついた。

私とぶつかった人は走ってきたみたいで、その勢いでズサーッと派手に転んでいた。

「ごめんなさい! 大丈夫ですか?!」

すぐに立ち上がって、うつぶせで地面に倒れている男子生徒に声をかける。

「お、おん。俺は大丈夫や。それより、自分のほうこそケガしてへんか?」

制服についた土を払いながら立ち上がったのは、よく昼休みの放送で声を聞く忍足先輩だった。

ブリーチされて金色になっている短めの髪が太陽の陽射しでキラキラと光っている。

こんなに近くで見るのは初めてだけれど、やっぱりカッコイイなと少しポーッとしてしまう。

「私は大丈夫ですけど、先輩は本当に大丈夫なんですか? すごい感じで転んでましたけど。」

気を取り直して聞けば、先輩はニカッと明るく笑った。

「ぜんぜん平気やで。」

ほっとしたのも束の間、半袖から出ている肘から血がにじんでいることに気づく。

「大丈夫じゃないですよ! 血、出てます、肘から…っ」

「あ、ホンマや。けど、大丈夫やで。大したことあらへ…」

「ダメです! 小さい傷でもちゃんと手当しないと!」

私は先輩の腕をガシッと両手でつかみ、グラウンドの近くにある水飲み場へ急いだ。



「余計なことをしてしまって、ごめんなさい…」

聞けば、部活中とかに小さなケガはよくするから手当ては慣れているそうだ。

だから、先輩は「大丈夫」と言ったらしい。

「別に謝らんでもエエって。自分は心配してくれたんやし。ありがとうな。」

そう言って、明るく笑ってくれる先輩の笑顔にキュンとする。

「いえ、そんな……あっ、私、ばんそうこう持っていますので。」

「おお、悪いな。」

「いいえ。そもそも、私がぶつかったせいですし。」

「いや、俺がちゃんと注意してへんかったのが悪かったんやろ。…って、俺、まだ謝ってへんかったよな。すまんかったな。」

「そんなっ、私のほうこそ…っ」

「せやから、自分は悪くないやろ。俺が…って、このままやと終わらんな。」

「…ですね。」

なんだかおかしくなってしまって、お互いに顔を見合わせて笑う。

「ばんそうこう、私が貼りますね。」

自分の肘に片手で貼るのは難しいだろう。

「おん、頼むわ。」

「はいっ、任せてください。」

傷口が乾いているのを確認して、ばんそうこうの包み紙を開け、ガーゼの部分が傷口に当たるようにしてシールを剥がす。

(ちゃんと傷口に合わせるようにして…)

「はい、出来ました!」

「ありがとうな。…って、イチゴ?!」

「これ、可愛くてすごく気に入っているんですよ。」

ばんそうこうが貼られた自分の肘を見ている先輩に、笑って答える。

先輩の肘に貼ったのは、ピンク色に赤いイチゴの絵がついた可愛いばんそうこうだ。

もったいなくてあまり使っていなかったから残っていたのだ。

「そ、そうやな。えらい可愛えな。」



(忍足先輩と話しちゃった。)

先輩と別れた後、私はすっかり舞い上がっていた。

好きな人と初めて話せたのだから、浮かれるなというほうが無理だろう。

(やっぱりカッコよかったな。)

これじゃ不審者だと思いつつ、どうしても顔がゆるんでしまう。

私はお笑いライブを見に四天宝寺華月に行こうとしていたことも忘れて、スキップでもしてしまいそうな気持ちだった。



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