ヒロイン視点
「おー、おー、ゆるみきった顔しとるなぁ。」
5時間目と6時間目の間の休み時間、あともう少しで先輩に会えるなと浮かれていたら、両側からむにーっと頬を引っぱられた。
「ともだちちゃん、痛いよー」
頬をつままれても、私の顔はゆるんだままだ。
「まったく…無制限に幸せオーラふりまきよって。」
大きなため息をついたともだちちゃんは私の頬から手を離した。
「だって、幸せなんだもん。今日は放課後に謙也先輩とデートだし。」
「あー、はいはい。デートという名の買い食い、な。」
「寄り道という名のデートだよ?」
机の前に立っているともだちちゃんを見上げて、にへっと笑う。
「たいして変わらへんやん。どっちにしても色気ないし。」
「色気って?」
「せやから、良い雰囲気になってキスの一つくらいせえへんのって話や。」
「っ!? そっ、そそそんなこと…っ」
ともだちちゃんがとんでもないことを言うから、ぼんっと一気に顔が熱くなる。
「やっぱりまだなんか。つまらんなー」
「ともだちちゃん…私のこと、からかって遊んでるでしょ。」
ツンツンと熱を持っている私の頬をつついてくるともだちちゃんに、少しむくれてみせる。
「ええやん、このくらい。幸せいっぱいなんやし。…良かったな。」
「…うん、ありがとう。」
優しい笑顔を向けてくれる友達に、私は照れながら笑顔を返した。
「謙也先輩…!」
生徒玄関を出ていく背中を見つけ、急いで追いかけて声をかける。
「なまえ、そんな慌てんでも…」
立ち止って振り返った先輩に追いついたところで、私は足をもつれさせてしまった。
「わわ…っ!」
転ぶ!と、思わず目をつむってしまったけれど、先輩が私の身体を抱きとめてくれた。
「あっぶな。…大丈夫か?」
先輩の胸に飛び込ように形になった私は、そのまま固まってしまった。
(だっ、抱き締められてる?!)
これは事故みたいなものだけれど、ともだちちゃんに言われたこともあって、変に意識してしまう。
「なまえ?」
「! だっ、大丈夫です! ありがとうございます!」
我に返って、あわてて先輩から離れる。
先輩は何も意識してないのか、きょとんとした顔をしている。
(一人であせってて恥ずかしい。)
頬の熱がひかないまま先輩を見ていたら、じわじわと先輩の顔が赤くなってきた。
「え……謙也先輩?」
「っ、…何でもあらへんからっ! そ、それより、行くで…っ」
ガシッと私の手を掴んだ先輩はずんずんと歩いて行く。
どうにかそれについて行きながら、前を向いている先輩の横顔を見上げる。
(もしかして、さっき……)
とっさだったから何とも思ってなかったけど、後から私と同じように恥ずかしくなってきた…とかだろうか。
なんとなく分かって、私は小さく笑った。
「なん?」
「何でもないですよ。」
「ふーん。…っと、悪い。歩くの速かったやんな。」
ハッとしたように言って、先輩は歩くスピードを落としてくれた。
「ありがとうございます。」
「いや……なあ、なまえ。他にも何かあったら言うてな。俺、女の子ってどうしたらエエか分からんこと多いし。」
「謙也先輩…大丈夫ですよ。」
繋いだ手に力を込めて、先輩に笑顔を向ける。
「私は謙也先輩のことが大好きですからっ」
「っ…俺も。俺も、なまえんこと大好きやで。」
「えへへー」
嬉しくて、繋いでいる手をぶんぶんと大きく振る。
そんな私を見ている先輩に気付いて、首を傾げる。
「私の顔に何かついてます?」
「なまえのそういう顔、見るの好きやなって思うて。」
照れくさそうに言った先輩の言葉に、かぁっと顔が熱くなる。
「そ、そうデスか。」
「ははっ 何で片言やねん。やっぱなまえはおもろいなー」
まだ少し赤い顔でおかしそうに笑う先輩を見て、私も先輩のこういう屈託のない笑顔が好きだなと思う。
こうやって手を繋いで、何気ない話をして、楽しそうな笑顔を見られて…すごく幸せだ。
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