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ヒロイン視点
本当に教室から追い出されてしまった私は、とりあえず放送室に向かっていたけれど、足取りは重い。
先輩に会いたい気持ちはあるのに、会うのが怖いとも思うから。
けれど、歩いていれば目的地には着いてしまうわけで。
(大丈夫、大丈夫。……よし。)
緊張でドキドキしている胸に手を当てて、ひとつ深呼吸をしてから足を踏み出す。
「おっと。」
「わわっ、すみませんっ!」
角を曲がった途端、誰かにぶつかってしまい、あわてて謝る。
(あれ、今のって…?)
頭を下げた私は聞き覚えのある声に、ゆっくりと顔を上げた。
「なまえ、久しぶりやな。っちゅーか、よくぶつかるな、俺ら。」
思った通り、目の前に立っていたの先輩で、いつもみたいに明るく笑っていた。
どこをどう見ても、いつもと同じだ。
そんな先輩の様子に安心したものの、ガクッと肩の力が抜ける。
先輩は鈍い、…らしい。
「どしたん、なまえ? 元気ないやんか?」
黙り込んだ私の顔を、先輩が心配そうに覗き込んでくる。
(なんだかなぁ。)
悩んでいた自分がバカみたいで笑いたくなってしまう。
「なんでもないですよ。というか、めちゃくちゃ元気です。謙也先輩に会えたので。」
笑ってそう返すけど、やっぱり先輩には伝わらないようだ。
(ちょっとくらい私のことでドキドキしてくれたっていいのに。)
私は先輩の態度や言葉ひとつで、いちいちドキドキしたり落ち込んだりするのに、と悔しいような気持ちになってくる。
そんなのは私の勝手な気持ちなのだけれど。
「なあ、放課後って空いとる? 暇やったら、どっか寄りながら一緒に帰ろうや。」
「…いいんですか?」
「おん。なまえと会うの久しぶりやから、色々話したい事あるし。」
「! じゃあ、放課後に校門で待ち合わせ、ってことでいいですか?」
先輩は私のことを年下の友達くらいにしか思っていないのだろうけど、単純なものでテンションが一気に上がる。
「ええで。ほな、また放課後にな。」
「はいっ、デートですね!」
私はにっこり笑って言った後、ぽかんとしている先輩にくるっと背中を向けて、来たばかりの廊下を戻った。
(このくらい言わなきゃ伝わらないよね。)
帰りのSHRが終わって、先生よりも先に教室を出た私は、そわそわしながら先輩を待っていた。
キョロキョロ周りを見たり晴れ渡った空を見上げたりしていると、誰かの走ってくる足音が聞こえてきた。
もしかして、と思ってそっちに顔を向けると、ぜんぜん知らない人があわてた様子で校門を出て行った。
がっがりして小さくため息をついたら、また誰かが走ってくる足音がした。
また違うだろうと思って自分のつま先を見ていたら、その足音は私の前で止まった。
「すまん、待たせてもうたな、なまえ。」
その声にパッと顔を上げれば、少し息を切らした先輩が立っていた。
急いで来てくれたのが嬉しくて、それだけで私は笑顔になる。
「ぜんぜん待ってないですよ。」
「そ、そうか。なら、エエんやけど…」
なぜか先輩は微妙に私から視線を外している。
いつもの先輩は真っ直ぐに相手の目を見る人なのに、どうしたんだろうか。
怒っているような感じはないと思うのだけれど。
「じゃあ、行きましょう!」
えいっ、と思いきって先輩の手を握る。
「な、なな何しとんねん?!」
「いいじゃないですか。デートなんですから。」
新鮮な反応だなと思いつつ、握った手にぎゅっと力を入れる。
「っ、……な、何で、こんな…」
私が歩き出すと、先輩もつられて歩き始めたけれど、私よりも少し遅れて歩いている。
本当なら私より歩くペースが速いのに。
胸をドキドキさせながら、ちらりと横目で様子をうかがえば、先輩の顔は赤くなっていた。
少しは私のことを意識してくれたのかなと、嬉しくなる。
振り解かれない手の温もりも。
だけど、私は欲張りだから…
「謙也先輩。」
「な、何や…っ?」
立ち止まって、繋いでいないほうの手で口元を隠している先輩を見上げる。
「これから、覚悟していてくださいね。」
余裕なんてないくせに、精一杯の笑顔でそう言って、私はまた先輩の手を引っぱって歩き出した。
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