あまいオトメゴコロ | ナノ


ヒロイン視点


学校帰りにスーパーへ寄ると、入り口近くに置かれているカプセルトイの所に先輩を見つけた。

座り込んでいる先輩の後ろ姿に、私は迷わず声をかける。

「謙也せーんぱい!」

「ん? おお、なまえか。買い物なん?」

振り向いた先輩が立ち上がる。

「はい。お母さんに頼まれてタイムセールのものを買いに。謙也先輩は…消しゴムですか?」

先輩の手元を覗き込むと、可愛い動物の消しゴムが何個か乗っていた。

「おん、新しいのが出とったんや。」

「…私もやってみようかな。」

パッと目についた和菓子のキーホルダーが入っている機械を回すと、黄色のふたのカプセルが出てきた。

さっそく中身を確認しようとするけど、ふたが固くて開かない。

「ちょっと貸してみぃ。」

そばに立っている先輩にカプセルを渡すと、簡単にふたを外してくれた。

「ありがとうございます。」

入っていたのは、とぼけた顔をした鯛焼きで、中身のあんこが少しはみ出している。

「そういや、近くに鯛焼き屋あったな。今から行くか? 羽根つきで美味いんやで。」

「行きたいです! …あ、でも、お使いを済ませてからでいいですか?」

「おん、俺はここで待っとるな。」

「はいっ、すぐに戻ってきますので!」



「ほら、こっちがカスタードな。」

「ありがとうございます。あの、お金を…」

「エエって。家の手伝いしとるなまえに俺からのご褒美や。」

白い紙に包まれたたい焼きを受け取りながら聞けば、くしゃっと頭を撫でられた。

また子供扱いされているけど、先輩の手の温もりを感じて胸がきゅうっとなる。

「ありがとうございます。じゃあ、遠慮なく…いただきますっ」

一緒に歩き出した先輩の隣で、ぱくりと頭からかぶりつく。

薄い皮はパリパリで、なめらかなカスタードクリームがたっぷりと入っていて…

「おいしー」

「せやろ。しっかし、食べとる時のなまえは幸せそうやな。」

もぐもぐたい焼きをほおばる私を見て笑う先輩は、小倉あんのたい焼きを食べている。

「おいしいものを食べたら幸せな気持ちになるじゃないですか。それに……」

「ん…?」

たい焼きをくわえたまま首を傾げる先輩に、笑顔を向ける。

「今は謙也先輩と一緒だから…余計におしいと思うし、幸せなんです。」

言い終わって、私は先輩から逃げるように駆け出す。

「謙也先輩、また学校で!」

少し走ってから振り返って、私はブンブンと手を振り、また走り出す。

先輩がどんな顔をしていたのかわからないけど、私の胸はドキドキと弾んでいた。



(言っちゃったなー)

自分の部屋で、私はクッションを抱き締めながら床の上をゴロゴロ転がっていた。

思い出すと恥ずかしくなって、私は両腕で抱えているクッションにばふっと顔をうめた。

次に先輩と会ったらどんな顔をしたらいいんだろう。

遠回しに言ったから、なにも伝わっていない可能性も多いにあるのだけれど。

でも、少しくらいは私の気持ちが伝わっていて欲しい。


    


「なんて顔してんの、あんたは。」

休み時間にぼーっと窓の外を眺めていたら、いつの間にか机の前にともだちちゃんが立っていた。

「どうせまた忍足先輩の事なんやろ? 今度はどないしてん?」

面倒そうにしながらも話を聞いてくれるともだちちゃんは優しいな、と思いながら口を開く。

「それがね、あれから先輩を会うタイミングがなくて……時間が経ったら、いろいろと不安になってきたっていうか…」

「まあ、そんなとこやと思うてたわ。けど、うじうじ考えとる暇あったら会いに行けばええやん。」

「それには心の準備が…」

「やかまし。会わん事には何も進まんやろ。全く、普段は無駄に勢いあるくせに肝心な所でヘタレやな。」

ぴしゃりと本当のことを言われ、返す言葉もない。

「どうせ器用な真似は出来ひんのやし、とことんぶつかってくしかないんやないの?」

「……そう、だね。うん、頑張る。」

「よし。そうと決まればや、なまえ。」

「えっと、…なに?」

「今日のお昼の放送は先輩やから、放送室から出てきたところで突撃や。嫌や言うても教室から放り出すからな。」

どうしよう。

今回は相談する相手を間違ったかもしれない。



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