50万打感謝企画 | ナノ


放課後にテニスコートに行ってみると、いつものように観戦席には女の子たち(他校生も)がたくさんいた。

何度来ても、女の子たちのテンションの高さには圧倒されてしまう。

だけど、自分の気持ちを抑える必要のないあの子たちが、私はうらやましい。

私は絶対に言えない…いや、言ってはいけないから。

想いを告げることが出来ない相手は誰よりも輝きを放っていて、その姿はすぐに見つかる。

あ…、と小さく掠れた声が洩れた。

それは何度も見た光景ではあったけれど、決して慣れることはない。

とても楽しそうに話をしているあの人とお姉ちゃんはいつ見てもすごくお似合いだ。

分かりきったことだし、そんなつもりもないけれど、私が入り込む隙なんて少しもない。

それなのに、恋心は消えてくれなくて、ズキンズキンと胸が痛む。

私は痛みを訴える胸を抱えながら、テニスコートを囲む観戦席を離れた。


● ● ●


どうしてこんな状況になっているのか、全く分からない。

私は今、跡部先輩とホテルのラウンジで午後のティータイムを過ごしていた。

放課後、私の教室まで来た先輩にアフタヌーンティーに誘われたのだ。

お姉ちゃんに関係することで何か相談でもあるのかと思ったけれど、話題は好きな映画やお気に入りの本についてなどだ。

先輩は自分の恋人の妹である私のことを気にかけてくれているようで、今までも話したことは何度かあった。

だけど、こうして二人きりで会うのは初めてだった。

向かいの席で優雅にティーカップを傾ける先輩の姿に、私の心は掻き乱されてしまう。

諦めなきゃいけないのに好きで好きで仕方なくて、切なくて苦しくて胸が張り裂けそうだ。

きっとおいしいであろう紅茶やお菓子の味が全然分からない。

「あの、お姉ちゃんはまだ来ないんですか?」

もしかしたら遅れて合流することになっているのかもしれない、と思って聞いてみる。

もしそうなら、今のうちに理由をつけて帰ってしまおう。

二人が一緒にいるのを間近で見たくはないから。

「まだも何もアイツは来ないぜ。誘ってないからな。というか、何故そんな事を聞く?」

「え……当たり前、じゃないですか。」

どうしてそんな風に言うのだろうと先輩を見れば、逆に怪訝そうな顔をされてしまった。

「何が“当たり前”なんだ。」

「だって、先輩とお姉ちゃんは…付き合っているんですから。」

今更のことだけど、自分の口から言うのはすごく辛くて、私はそっと目を伏せた。

顔を見られないように俯き、ぎゅうっと制服のスカートを握り締める。

「お前、あんな噂を本気にしてたのか? あれは根も葉も無いただの噂だぜ。大体、アイツに確認しなかったのかよ?」

「お姉ちゃんは『ありえない』って笑ってましたけど、それは二人だけの秘密だからなんじゃ…」

泣きそうになってしまい、私は奥歯をぐっと噛み締めた。

「何でそういう解釈になんだよ。そもそもアイツがお前に嘘を吐くとでも?」

「それは…」

お姉ちゃんは昔から私のことをとても可愛がってくれていて、私に嘘をついたり意地悪をしたりなんてことは一度もない。

「でも、先輩とお姉ちゃんはすごく仲が良いじゃないですか。それに、二人でいると絵になってお似合いで…」

「あのなぁ、本人が違うって言ってるんだぜ。それと“お似合い”とか意味分かんねーよ。そういう事で好きになる訳じゃねーだろうが。」

苛立ったように言われて、ビクリと肩が揺れた。

「ご、ごめんなさい…っ 私、ずっとそうだと思ってて…」

「成程な。手応えが無い筈だぜ。」

「……え?」

おずおずと顔を上げたら、テーブルの向こうから大きな手が伸びてきて、私の髪の一房を掬い上げた。

じっと目を見つめられ、鼓動が速くなって顔が熱くなる。

「本当は分かり易いんだな、お前。」

「あ、あの…っ?」

綺麗な弧を描いている先輩の唇が動く。

「俺はお前が好きだ。ずっと前からな」



秘めた恋
(2012.12.18)
 


 リクエストありがとうございます、朱莉さん。
 切ない感じにしたほうが良いのかと思いまして、ヒロインが跡部さんと自分の姉が付き合っているという誤解がとけるまではヒロインの切ない気持ちを強調しました。跡部さんは少しずつヒロインとの距離を縮めようとしていましたが、ヒロインは跡部さんを諦めようとしていたので、すれ違っていました。そして、最後は跡部さんにシンプルに告白してもらいました。
 ご希望に沿えていなければ書き直させていただきますので、遠慮なくおっしゃってください。


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